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» 2015年02月25日 10時00分 公開

クルマから見るデザインの真価(1):「魂動デザイン」は足し算ではなく引き算 (4/4)

[林田浩一/林田浩一事務所,MONOist]
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「CX-5」「アテンザ」大幅改良の意味

 CX-5開発主査の大塚正志氏によるプレゼンテーションでは、「売り場の鮮度を常に最新に保つ」という言葉で語られたが、発売から2〜3年でマイナーチェンジ、4〜5年でフルモデルチェンジという、モデル単体の開発スケジュールだけでクルマがディーラーのショールームに並べられると、当然ながら新しい技術やデザインが盛り込まれた他のクルマと、一世代古いクルマが同じ売り場に並ぶということが出てくる。

 そうではなく、売り場に並ぶどのクルマにもその時々の最新の技術やデザインが盛り込まれていて、ショールームに来たお客さまが、いい意味で目移りして迷ってしまうという状況にすべきと考える。

 これを実現するために、あるモデルで投入された技術はなるべく早く他のモデルにも、それぞれのモデルチェンジのタイミングまで寝かせることなく展開してしまおうという考え方である。これはマツダのラインアップ規模だから実現できる強みでもあろう。一貫性のある思想や見え方が売り場であるショールーム全体に行き渡っていれば、ブランドの「らしさ」のメッセージとなる。SKYACTIVと魂動デザインのセットが、ファンや顧客になって欲しい人たちへの、マツダからのメッセージというわけである。

 最初に登場したのが2012年であるCX-5とアテンザは、魂動デザインとSKYACTIV、ともに現在のマツダのラインアップの中では「初期モデル」となる。そこで“初期モノ”のCX-5とアテンザが、2014年9月発売のデミオと同時に見られても古さを感じさせないようなアップデートがなされた。

全てのラインアップに最新の「SKYACTIV」と「魂動デザイン」を反映させていくマツダの構想 全てのラインアップに最新の「SKYACTIV」と「魂動デザイン」を反映させていくマツダの構想(クリックで拡大) 出典:マツダ

 そして、間もなく発売となるCX-3、ND型ロードスターがショールームに並ぶと、SKYACTIVと魂動デザインのセットによるラインアップがそろう。その時点でモデルごとの内容の鮮度レベルが大きく違わないというわけだ。

「CX-5」「アテンザ」の改良ポイント

 今回デザイン面での変更では、CX-5、アテンザどちらも内外装共に手が加えられている。

 外観では、CX-5はより力強いSUVを目指し、アテンザはフラッグシップらしく存在感を強めた印象の変更である。変更範囲が大きいのはアテンザの方で、フロント周りは、ヘッドランプ、バンパー、グリルと全て変更されている。グリル周りのシグネチャーウイングと呼ばれるモールの扱いが大きくなり、さらにこれに沿ってLEDが埋められてラインの流れを強調しているあたりは、先述したTAKERIに近づいたようにも見える。

大幅改良した「アテンザ」のフロントフェイス 大幅改良した「アテンザ」のフロントフェイス(クリックで拡大) 出典:マツダ
クラスレスの上質感を備える「デミオ」のインテリア クラスレスの上質感を備える「デミオ」のインテリア(クリックで拡大) 出典:マツダ

 今回のデザイン変更では、両車ともに目玉となるのはインテリアの変更ではないだろうか。クルマの仕事をしていて実感するが、お客さまの興味をひいてショールームまで足を運ばせる、購入への意志決定に関わる段階では、外観デザインの魅力度合いが強い。しかし、購入後の満足度を左右するのはインテリアデザインに関わる部分が多くなる。使い勝手であったり、視界であったり、素材や質感などからの空間としての居心地であったり、人間の身体に働き掛けてくる物理的、感性的な機能は、使用経験の時間の積み重ねの中でジワジワと魅力の度合い、あるいは不満として蓄積されていく。

 魂動デザインの進化の中では、デミオでインテリアデザインの質感が大幅に上がり、クラスレスの質感を感じさせることに成功したように見える。これに呼応するように、CX-5、アテンザともに質感レベルをアップデートさせている。よりすっきりとさせた造形、素材の質感、部品ごとの合わせ部分の精度感といったさまざまな要素が全体で効いている印象だ。

2012年11月発売時の「アテンザ」の外観2012年11月発売時の「アテンザ」の内装 2012年11月発売時の「アテンザ」の外観(左)と内装(右)(クリックで拡大) 出典:マツダ
大幅改良後の「アテンザ」の外観大幅改良後の「アテンザ」の内装 大幅改良後の「アテンザ」の外観(左)と内装(右)(クリックで拡大) 出典:マツダ
部品ごとの質感向上のみならず、部品同士の合わせ(いわゆるチリ)が細かくチューニングされている 部品ごとの質感向上のみならず、部品同士の合わせ(いわゆるチリ)が細かくチューニングされている。特に構成部品が多く集まるエリアではこういった積み重ねが質感を高く感じさせることに貢献している(クリックで拡大)

 造形面では、特にアテンザで、インパネとセンターコンソールという大物部品にデザイン変更が加えられている。従来は、インパネとセンターコンソールで「T字」に空間を仕切るような印象としていたものが、左右方向に伸びやかなインパネに向かって、形をよりすっきりとさせた前後方向に伸びやかなセンターコンソールが飲み込まれていく形状となった。このため、シートに座った目の前の景色が随分と変化し、空間としての印象が現時点で最新のデミオと同じ世代となった。

個ではなく群としての魂動デザイン

 「ショールームの鮮度を保つ」という言葉から、最近の他のマツダ車も意識しながら今回のデザイン変更の中身を見ていくと、間もなく登場する一回りライトな立ち位置のCX-3に対するCX-5、マツダのフラッグシップとしてのアテンザの新しさや力強さ(他のモデルと比較して、古さを感じさせては存在感が薄まる)といった「役割分担」も見据えたアップデートであることも分かる。モデルごとに、デザインの特徴を感じるのでなく、マツダ車全体の統一感ある雰囲気の中の1つのモデルという見え方をしているのは、魂動デザインをマツダらしさのアイコンとして、ここまでは進化/深化してきているということであろう。



 SKYACTIVと魂動デザインによる、最近のマツダらしさの進化/深化を、ユーザーや、ユーザーに近い場所にいる販売の現場の人たちはどのように感じているのかも興味があるところだ。次回は、そのあたりからマツダの魂動デザインを見ていってみたい。

Profile

林田浩一(はやしだ こういち)

デザインディレクター/プロダクトデザイナー。自動車メーカーでのデザイナー、コンサルティング会社でのマーケティングコンサルタントなどを経て、2005年よりデザイナーとしてのモノづくり、企業がデザインを使いこなす視点からの商品開発、事業戦略支援、新規事業開発支援などの領域で活動中。ときにはデザイナーだったり、ときはコンサルタントだったり……基本的に黒子。2010年には異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。最近は中小企業が受託開発から自社オリジナル商品を自主開発していく、新規事業立上げ支援の業務なども増えている。ウェブサイト/ブログ誠ブログ「デザイン、マーケティング、ブランドと“ナントカ”は使いよう。」などでも情報を発信中。



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