「S660」はなぜ軽自動車になったのか車両デザイン(3/3 ページ)

» 2015年04月01日 09時00分 公開
[陰山遼将MONOist]
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「多くのユーザーに手の届くクルマにしたかった」

 S660の特徴といえるのがその開発経緯だ。車両開発責任者はホンダの歴史の中でも最年少になるという本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPLの椋本陵氏が務めた。S660は同氏が本田技術研究所の設立50周年を記念して行われた「新商品提案企画」で提案を行い、グランプリを獲得したことをきっかけに開発がスタートしている。各領域のプロジェクトリーダーに若手エンジニアを据え、サポート役となるベテランエンジニアを加えたチームで開発が進められた。


本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPLの椋本陵氏(左)とホンダが2011年に発表した「EV-STER」(右)(クリックで拡大)

 会見に登壇した椋本氏はS660について、「見る楽しさ、いつまでも乗っていたくなる楽しさに加え、長く愛されるクルマにするという観点からも開発を進めた。車の魅力に慣れ親しんだベテランドライバーが楽しめることはもちろん、ビギナーをはじめとする多くの人がクルマの楽しさを体感できる、懐の深いスポーツカーを目指した」と語る。

 ホンダは2013年の「東京モーターショー」などで、S660のコンセプトモデルを披露してきた。しかしそのデザインの原型となったのは2011年に発表した「EV-STER」である(関連記事:ホンダ、FR&オープンカーのスポーツEV「EV-STER」)。EV-STERはその名の通り電気自動車(EV)タイプとなる2人乗りのオープンスポーツカーだ。椋本氏はS660が最終的にEVではなく、さらに軽自動車枠として開発された経緯について「スポーツカーでありながら、多くのユーザーに手の届くクルマにしたかったからだ」と、幅広いユーザーを視野にいれて開発したことを強調する。

 また、S660とEV-STERのエクステリアデザインを担当した本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン開発室の杉浦良氏は「EV-STERを発表した時、『これを軽自動車枠で実現して欲しい』という声を多く頂いた。その後、さまざまな議論の末、S660は軽自動車枠で開発することが決まった。スポーツカー愛好家から今までミニバンしか乗ったことがないというような方まで、さまざまなユーザーを対象とするS660は、スポーツカーとしての普遍的な魅力、そしてホンダらしい先進性を両立させたエクステリアデザインを目指した」としている。

「コペン」や「ロードスター」とともにスポーツカー市場をけん引できるか

 ダイハツ工業が2014年6月に新型「コペン」を発売し、マツダは2015年3月に新型「ロードスター」の先行受注を開始するなど、2人乗りオープンスポーツカーに関する話題が増えている。会見に登壇したホンダの国内販売を担当する専務執行役員の峯川尚氏は「あくまでも限られた市場だと考えており、S660だけの特別な販売施策は用意していない」と語ったが、コペン、ロードスターに並ぶS660は、“走る楽しさ”や“所有する喜び”といったユーザーの感性に訴えるスポーツカー市場をけん引できるだろうか。

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