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» 2015年04月03日 11時00分 公開

「魂動デザイン」は販売店にも価値を生み出しているのかクルマから見るデザインの真価(2)(2/6 ページ)

[林田浩一/林田浩一事務所,MONOist]

価格交渉ありきの営業現場でなくなった

 一番の大きな変化は、価格交渉ありきの営業現場ではなくなったことだ。以前だと、価格交渉が前提になっていて、どうしても競合車と比較した「高い、安い」という話が多く、定価からの値引き額が売れゆきを左右してしまっていた。しかし、「現在では、そこ(価格交渉)は必ずしも営業活動の主軸になっておらず、購入候補のクルマ自体の価値と価格のバランスを見る顧客が多くなっている」(片桐氏)という。同氏からさまざまな顧客のエピソードを聞いていると、この変化を生み出したのは、魂動デザイン以降の各車両において、デザインや機能性・パフォーマンスといった魅力が向上したことだけでなく、マツダが言うところの「売り場の鮮度を保つ」方針も大きく影響していることがうかがえる。

 ショールームに並ぶどのモデル(インタビューさせていただいた当日は、アテンザ、CX-5、デミオ、そして発売前のCX-3、計4車種が展示されていた)も、SKYACTIVの技術要素や魂動デザインはほぼ最新のものであり、同じ鮮度といえる状態になっていた。メーカー(作り手)であるマツダは「お客さまを、いい意味でショールームで目移りさせたい」と意図を説明していた。そして片桐氏のようにエンドユーザーとの接点となる販売現場の方にとっては、各モデルの鮮度が同じ、つまり技術やデザインで大きな差異がないという事実が背景になって、ユーザーの使い方に対して「この人にはこのクルマ」という勧め方をするように変化してきているようである。

目黒碑文谷店に展示されていた「CX-5」目黒碑文谷店に展示されていた「アテンザ」目黒碑文谷店に展示されていた「CX-3」 目黒碑文谷店に展示されていた「CX-5」(左)、「アテンザ」(中央)、「CX-3」(右)(クリックで拡大)

 顧客側の動きでも、魂動デザインの発表以降は、デザインを気にする人が増えているとのこと。マツダブランド全体で一貫性を持たせるデザインになったことで、顧客との会話の中でデザインが営業ツールとして機能していることも伺える。

 デザインは、視覚や触感などで感じる要素が強いものである。しかし、そのクオリティが重要なのは当然ながら「ブランドの語り部となる人(販売の現場では営業パーソン)が、意図やストーリーを語りやすいか」ということも、ブランドイメージを価値と結び付け、伝える中で重要になる。

 取材当日のショールームには、正式発表前のCX-3が既に展示されていたのだが、例えばCX-3という新しいクルマが出ることを顧客に案内するシーンでも、以前の「まず価格から」の営業であれば「今度CX-5の小さいのが出るんですよ」というような案内になっていただろう。一方現在では、クルマの価値をいかに伝えるかということへと変化してきているので、CX-5を引き合いに出すことなく、顧客のライフスタイルに対するCX-3の価値を説明できる。このことは、マツダ車に対して「競合車より安い」ことだけではない期待感を抱く顧客層を呼び込むことに成功しつつあるということも意味している。

 片桐氏から伺った魂動デザイン以降で顧客が変わってきた話の中で印象的だったものを幾つか挙げてみよう。「2年前にアテンザを購入した顧客が、今回の大幅改良で質感の上がったインテリアを見て入れ替えを決めた」。これは片桐氏自身も経験のない驚きだったとのこと。他には、「小型車の購入を検討している顧客本人はデミオに傾いていたものの、家族は反対で他社のクルマを推していたが、その反対していた家族もデミオの内装を見て試乗した後は賛成に変わった」、「マツダ車を購入する際の下取り査定データを見ていると、輸入車が下取りされる例が増えてきている」などだ。

目黒碑文谷店で片桐氏(右)にインタビューする筆者(左) 目黒碑文谷店で片桐氏(右)にインタビューする筆者(左)

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