ラップタイムに効く空力効率! PIVとCFDで開発するF1カーCAEセミナーリポート(1/2 ページ)

F1車両のシーズン中の開発において最もラップライムに寄与するのは空力効率の向上である。トヨタF1では従来の風洞実験における課題を克服するためにPIVを導入し、ホイール回りや車体下、車体側面などの可視化システムを構築した。

» 2015年04月08日 09時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 フォーミュラ・ワン世界選手権(F1)では年間20戦ものレースが1、2週間の間隔を置いて開催される(2015年シーズンの場合:取材時点)。そのレースの合間には日夜、風洞実験やCFDによる空力開発が行われている。トヨタは2002〜2009年までの間、F1に参戦。豊田中央研究所の中川雅樹氏はそのF1車両の空力開発に携わり、PIV(Particle image velocimetry、粒子画像測定法)による可視化手法を確立した。2015年3月2日に開催されたシンポジウム「モータースポーツ技術と文化」(自動車技術会主催)で、中川氏がその詳細を語った。

風洞実験で量を回すのが限界に

 F1車両のラップタイムに寄与する要素は空力効率、重量、タイヤグリップ、エンジン、重心高などになる。その中でもF1のシーズン中に向上させやすいのは空力効率だという。重量については通常レギュレーションの最低重量が維持される。エンジンの開発はシーズン中に行うことは基本的になく、重心高を下げるのも現実的ではない。タイヤについては提供メーカーが決まっているため各チームで差を付けられない。その中で「空力効率を0.01向上させるのは、通常、風洞を使って1週間開発を行えば達成できる数字。いかに空力開発が重要か分かる」と中川氏は言う。

 空力開発においては、フロントホイール回りの流れを制御しつつ、きれいなエネルギーを持った流れを床下に押し込むのが重要になる。フロントホイール回りの流れは乱れてエネルギーを失っており、床下からの流入は排除する方向になる。空力開発に制限が掛かる2009年以前は、そのために多くの複雑な整流パーツが作られていた。その中で風洞実験も頻繁に行われていた。

 PIVを導入する前は主にダウンフォースが測定されていたが、実験結果とCFDの結果との整合性が取れないことが課題だった。風洞実験では、考えるよりもとにかく何百のパーツを計測するという風潮があった。「なぜダウンフォースが増減したか」という考察は後回しになってしまっており、開発効率の向上に限界が感じられたという。一方、従来の風洞実験の可視化手法では、流れを観察してメカニズムを理解することは容易ではなかった。そこで新たな可視化手法としてPIVを採用することにしたという。

トヨタのF1空力開発では、風洞の常設PIVシステムを構築。上部3点の図は、左から風洞測定部の様子、測定部の模式図、測定部の外側に配置したPIVシステム。下部の4点の図は、左上からフロントホイール後流、フロントホイール後流の斜め断面、床下の流れ場を下から見たもの、車両周囲の流れ場。

より実用的な可視化手法としてPIVを採用

 風洞で流れを観察する簡単な方法には「タフト法」(糸を張って流れを可視化する)があるが、これは目安程度に使うものだ。オイルフローは蛍光塗料を混ぜた油をモデルに塗布して流線を観察する手法で、表面の流れを詳細に観察できる。一方、空間的な速度場を計測するためには、ピトー管をトラバース(移動)させながら計測するか、レイク(熊手)状にして同時に計測する方法しかなかった。だがこれらの方法は侵襲的で、流れ場に影響を与えてしまう。そこで非侵襲的手法としてPIVを導入することにしたという。PIVは空気中にμmオーダーの粒子を投入し、この粒子を時間間隔を開けて撮影することにより速度場を求める。今回の実験では2次元断面における2速度2成分(2D2C)の速度場を測定した。撮影は面状に広げたパルスレーザー(レーザーシート)を20μ秒程度の間隔で照射して、パルスレーザーと同期させて行う。面内における微小時間後の粒子の移動距離を調べ、これにより速度分布を求める。

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