ミッション達成の“ミニはやぶさ”「プロキオン」、エンジン停止をどう乗り切るか宇宙開発(2/3 ページ)

» 2015年04月10日 11時00分 公開
[大塚実MONOist]

ノミナルミッション達成

 打ち上げからこれまでの4カ月で、ノミナルミッションはほぼ達成。ロケットからの分離後、太陽電池パドルは正常に展開し、想定通りの発電量が得られている。機体各部の温度も想定の範囲内。3軸姿勢制御が確立できており、現在、探査機の生存に問題は無い。

photo 発電量は想定通り。これほど一致するのはJAXAの専門家からも「すごい」と言われたそうだ
photo 分離後、最初のハードルと言える自動制御シーケンスも正常に動作。機体の回転を止めて3軸姿勢制御に移行した

 深宇宙における通信にも成功。現在、主に使っているのはローゲインアンテナとのことだが、ミドルゲインアンテナでの通信も実施した。なお地上局は、臼田と内之浦にあるJAXAの大型パラボラアンテナが使われているとのことだ。

 一方、推進系では、2015年2月末より軌道制御を実施。これまでに累計223時間という長時間、イオンエンジンの運転を実施することができた。地上からの計測で、推力は366μNと推定。これは、スペック(300μN)を上回る数字である。

photo これまでに、イオンエンジンは223時間の運転を実施、姿勢制御(アンローディング)は68回実施した

 ただしイオンエンジン(軌道制御用)とコールドガスジェットスラスタ(姿勢制御用)を統合した推進系「I-COUPS」は定常運用の前に、(1)調圧制御ソフトウェアの不具合による流量異常、(2)中和器電圧の異常上昇、といった問題も発生していた。

photo I-COUPSの構成(論文「Unified Propulsion System to Explore Near-Earth Asteroids by a 50 kg Spacecraft」 http://digitalcommons.usu.edu/smallsat/2014/NextPad/6/ より引用)

 上記(1)の問題は、ソフトウェアのバグが原因と特定されている。I-COUPSは、超小型衛星「ほどよし4号」に搭載されたイオンエンジン「MIPS」に、姿勢制御スラスタ(RCS)を追加した構成。RCSはリアクションホイールのアンローディングに欠かせないが、燃料のキセノンを共通化することで、小型軽量化が図られている(関連記事:「超小型衛星の世界を変える!!」――世界最小クラスのイオンエンジン「MIPS」 )。

 この不具合は、MIPSとRCSを同時に動かすときのみに発生するという。地上試験では、MIPSとRCSは個別に動作確認をしており、同時運転を行わなかったため、この問題を見つけることができなかったのだ。

 これはI-COUPS内部の制御ソフトのバグなのだが、この部分については、軌道上でアップデートすることができない。しかし、その上位にある探査機のメイン計算機(OBC)については、柔軟な再構成が可能となっているため、調圧機能の一部をOBC側に持たせることで、この問題を解決した。

 少々厄介なのが(2)の問題だ。これは、ほどよし4号でも地上試験でも現れなかった現象で、まだ原因が特定できていないが、キセノンの流量を増やすことで、状態が改善されることが分かった。これにより、イオンエンジンの燃費は少し悪くなってしまうものの、もともと燃料の消費はRCSの方が多いくらいなので、燃料不足になることはないそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.