特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

IoTの老舗団体「IPSO Alliance」は何を手助けするかIoT観測所(8)(1/2 ページ)

まだIoTという言葉がないころから活動している「IPSO Alliance」もIoT団体と言っていい。ただ、規格を作り普及させるというより、“手助け”に軸足を置くのがこの団体の特徴と言っていい。

» 2015年04月16日 07時00分 公開
[大原 雄介MONOist]

 今回は「IPSO Alliance(IP for Smart Objects Alliance)」をご紹介したい。IPSOの設立は2008年9月の事で、この連載で紹介してきた多くのIoT団体と比べると圧倒的に歴史が長い(Sep 16 2008 ? NEW INDUSTRY ALLIANCE PROMOTES USE OF IP IN NETWORKS OF ‘SMART OBJECTS’)

 設立メンバーはArch Rock、 Atmel、 Cimetrics、 Cisco、 Duke Energy、 Dust Networks、 eka systems、 EDF (Electricite de France) R&D、 Emerson Climate Technologies、 Ericsson、 Freescale Semiconductor、 Gainspan、 IP Infusion、 Jennic、 Kinney Consulting、 Nivis、 PicosNet、 Proto6、 ROAM、 SAP、 Sensinode、 SICS、 Silver Spring Networks、 Sun Microsystems、 Tampere University、 Watteco、 Zensys

の25社で、Sun Microsystemsのようにもう存在しない会社も混じっている。

 IPSOの目的は“Smart Object”をIP(Internet Protocolの方:Intellectual Propertyの方ではない)ベースで構築するための「手助け」を行う事にある。

「Smart Object」とは?

 まずSmart Objectとはなんぞや、という話であるが、プレスリリースによれば「Smart Objectsとは、物理世界にある『モノ』そのものであり、組み込み機器の手助けとなるものだ。例えば温度とか照度、動き、健康状態などの状態や環境などの情報を、そのデータを分析したり、他のデータと相関させたりする場所に送るモノだ。既にあるアプリケーションは、オフィスなどの省エネルギー化につながるビルオートメーションや産業機器、資産管理や資産追跡から、病院における患者のモニタリングや安全性の確認まで、幅広い分野に及んでおり、近い将来にはさらに多くのアプリケーションが登場する」と定義されている。

 何のことはない。要するに自律的に動作して、かつメッセージを送り出すものがSmart Objectsに相当するわけで、現実問題としてこれはIoTにおけるエンドノードやハブ、ルータなどにかなり近い(というか、かなり重なる)ものである。もちろん、団体設立当時はまだIoTなんて言葉はなかったから、その代わりとして「Smart Object」という用語を当てた訳だが。

 ではこの目的を実現するための手段、つまり「手助け」とは何か?であるが、プレスリリースによればIETF(Internet Engineering Task Force)やIEEEと共同で、相互運用性のテストや、IPベースの技術に関するドキュメントの発行、マーケティング活動、適用事例をまとめたレポジトリの運用などを行うとしている。

 自分であれこれ規格を策定したりせずに他の標準化団体に任せ、その代わりにその助けを行うというポリシーは、「Industrial Internet Consortium」(IIC)に近いものがある。ただIICは中核にPredixというGEのソフトウェアありきのエコシステムであるのに対し、IPSOはもっと漠然とした“IP Network”を軸にしており、このためか行動はイマイチ地味である。

 例えば創立メンバーの1社であるArch Rock CorporationのBrian Bohlig氏が2008年10月に寄稿した「Wireless Network Sensors Move Onto the Internet」という記事は、半分くらいは自社のIPベースWSN(Wireless Sensor Networks)向け製品の広告と化しているのだが、それでも残りの半分でIPを利用することのメリットと、IPSOという組織が立ち上がったことの紹介などに触れている。

 あるいは同じ2008年の10月に、Paul Korzeniowski氏はForbesに「What's Next For IP Networks?」という記事を寄稿し、この中でもう少しまじめにIPSOの取り組みを紹介している。

 ただし、この時点でのIPSOの論調的にはZigBeeを仮想敵としている節がある。ZigBeeそのものは現時点においてもあまり成功しているとはいえないが、失敗したとも言いにくい微妙な立ち位置にある。ただそれは現時点の話であって、2008年前後で言えば比較的有力な候補として考えられていた。特にスマートメーターの分野ではZigBeeが広く利用されると予測されており、これもあってかZigBeeにIP Networkの機能が欠けることを問題視する論調になっている。

 問題視するだけでは解決しないのであって、IPSOは解決策としてZigBeeに代わるIP Networkの策定に協力した。最初に立ち上がったのが6LoWPAN(IPv6 over Low power Wireless Personal Area Networks)である。Photo01はESC 2010 BostonにおけるGeoff Mulligan氏(IETF 6LoWPAN Chair兼IPSO Alliance Chairman)のプレゼンテーションだが、1985年では家庭用ネットワークなど数えるほどしか無かったのが、2007年では驚くほど多くのネットワークが乱立しているのが分かる。

photo (Photo01)一部ネットワークというよりはその上位プロトコルとかも混じっているし、これで全部という訳でもないが、まぁとにかく数は多い。ちなみに1985年といえば、まだ10BASE-Tすら無い(10BASE-2がようやく規格化)時期なので、IPベースはこの時点では当然ながら無理だった

 ではこうしたところになぜIPベースのNetworkを新たに追加しようとするのか?という理由がPhoto02になる。

photo (Photo02)個別の要件を見ていくと、確かにIPが解になるのは事実だが、IPだけが解ではないのも事実で、このあたりが実は一番難しい点

ではなぜIPはインターネット以外に使われなかったか?と言えば理由は幾つかあるが、その1つはヘッダ部のオーバーヘッドが大きい(Photo03)事が挙げられる。他にもルーティングの処理が相対的に重いなどの問題もあるが、ZigBeeがターゲットとしているような分野では何しろ通信速度が遅いし、メッシュネットワーク的なものへの対応は遅れていた。

photo (Photo03)ヘッダサイズはIPv4で20Bytes、IPv6では40Bytesにも及ぶ。さすがにこれだけ大きいのは、低速のMesh Networkではあまりに非実用的すぎる
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