ZEV規制から読み解く環境対応自動車の攻防〔後編〕知財コンサルタントが教える業界事情(20)(5/5 ページ)

» 2015年04月21日 12時00分 公開
[菅田正夫MONOist]
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世界の水素ステーションの普及展望

 今後の普及に向け促進政策がとられてはいるものの、現状ではFCVが高額な自動車であることは事実です。では、米国でのFCV市場立ち上げに必要な水素ステーション数は、どのように見積もられているのでしょうか。

 カリフォルニア州では、地域における水素ステーションに、運転者が6分以内にアクセスできることを目指すとしています。これは既存のガソリンスタンドの5〜7%に水素供給設備を設置することに相当します。最大6分のアクセス時間は、最適化研究、運転者行動調査、さらには水素ネットワークカバー率とネットワークコストのバランスを踏まえて算出されたといいます。同様の算出式において、既存のガソリンスタンドは4分以内にアクセスできる状況にあるとされていますが、これはユーザーニーズを考えた場合、過剰であると見られているようです※)

※)FCVの商業化に必要な水素ステーションの必要数(米国における試算、PDF)

 2014年11月21日には、米国におけるFCVの普及促進を狙って、アメリカホンダ(American Honda Motor)は、米国で水素ステーションの整備を手掛ける米FirstElement Fuelに1380万米ドルを支援すると発表しました。カリフォルニア州からの助成金と今回のホンダからの支援によって、FirstElementは12カ所の水素ステーションの設置が可能になります(関連記事:水素に風力、新エネに走るホンダ)。

日本ではトヨタ、日産、ホンダの3社が共同で整備

 日本では2015年2月12日に、トヨタ、日産、ホンダの3社が、FCVの燃料である水素ガスを供給する日本での水素ステーションの整備促進に向け共同で整備に取り組むことに合意したと発表しています。日本の大手自動車メーカー3社は、各社それぞれの思惑はありますが、FCVの普及に向けた水素インフラ整備に向けては共同で取り組む姿勢を示したことになります(関連記事:トヨタ日産ホンダが水素ステーション整備で合意、運営費用を一部負担へ)。

 FCVを「燃料電池という発電機を搭載したEV」と見れば、EVの登場で変わり始めた先進市場(米国・欧州・日本)における、自動車産業の業態はさらに進化すると考えられます。VWグループの提唱する「最初から1つのパワートレインで、あらゆる駆動方式の車輛に対応できるようにする」という思想は、ある意味においては、メーカーとしては賢明な策といえるのかもしれません。

 ただ、新興国など電力や水素インフラが未成熟な国や地域にとっては、ガソリン車やディーゼル車が必須の輸送手段であることは当面は変わらないと見られます。ですからエコカーに関連する企業は「社会基盤としての交通輸送システム、エネルギー源までを熟慮した経営」が求められています。

コラム3

水素社会に関わる情報源

「世界の水素と燃料電池に関する研究開発に関する調査結果」が分かる情報源としては以下のものがある。


特許の分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。

データベース

項目 内容
日本特許 CKSWeb(中央光学出版のご好意で試用しています)
外国特許 Espacenet(EPOの無料特許データベース)
CPA Global Discover(日本技術貿易のご好意で試用しています)

検索条件

項目 内容
日本特許 公開系特許および登録特許検索(詳細はコラム2参照)
1.(出願人:川崎重工業)*(全文:液化水素)
2.(出願人:千代田化工建設)*(発明者:岡田 佳巳+岡田 佳己)*(全文:有機ケミカルハイドライド法+(メチルシクロヘキサン*トルエン))
外国特許 「Applicant*Title & abstract」に注目した特許検索
PA(CPA Global Discover)/Applicant(Espacenet):英文企業名/特許管理企業名(詳細:コラム1参照)
Title & abstract:fuel cell Not biofuel

筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。




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