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» 2015年05月14日 10時00分 公開

「S660」と「コペン」が同じ軽オープンスポーツなのに競合しない理由クルマから見るデザインの真価(3)(3/4 ページ)

[林田浩一/林田浩一事務所,MONOist]

オープンカーがあるライフスタイルを手軽に楽しむ「コペン」

 一方、コペンは、「ミラ イース」のシャシーをベースとしているため、車両前部のボンネット内にエンジンが配置されるFF車だ。以前の記事でも述べたが、ミラ イースより全高が低い分、カウルポイント(フロントウィンドウの下端)もミラ イースに対して80mmほど低められている。しかし、エンジンの搭載高さが同じであることや、現代の安全基準要件に含まれる歩行者保護性能を確保しなければならないことにより、ボンネットとエンジンの間に空間が必要となる。このため、びっくりするような低いフロントフードを持つクルマにはならない。

 S660のウエッジシェイプ気味のシルエットと比較すると、コペンは水平基調だ。S660と同じ軽枠のオープン2シーターながら、コペンはフロントに大きなボリュームを持つため、普通車と比べると、ボディやタイヤに対するヘッドランプなどの部品のサイズがより大きく感じられる。このあたりのどこからみても軽自動車らしい点は、S660とは逆の印象であるが、かえってスーパーカーや普通車のスポーツカーのミニチュアっぽくしようとしていないところで好感が持てる。

 スポーツカーであることを掲げるコペンだが、昨年(2014年)のモデルチェンジで2代目になるに当たって提供しようとする世界観は、S660と大きく異なっている。S660が、街中の交差点から山道、時にはサーキットまで「ドライビングを楽しむ人へのツールの提供」であるのに対し、コペンは「小さなスポーツカー、あるいはオープンカーがあるライフスタイルを手軽に楽しむことへの提案素材」になっている。

「コペン」の着せ替えできる外板構造「コペン」の電動メタルハードトップ 「コペン」は、「走り」だけでない拡張性と手軽さを期待させるスポーツカーなので、着せ替えできる外板構造(左)や電動メタルハードトップ(右)などが採用されている(クリックで拡大) 出典:ダイハツ工業

 それ故に、簡単に開けたり閉めたりできる電動のハードトップや、オープンにしたときの開放感(オープン時の開放感は、タルガトップで背中に“壁”がそそり立つS660と比べると、ドライバーの後ろに最小限のロールバーと低いトランクしかないコペンの方が大きい)、防犯性の面からの安心感のある金属製のハードトップを備える必要があるという選択に行き着いたと理解できる。2人乗車だとほぼ荷物を積む場所のないS660に対し、ハードトップを閉めたクローズドの状態であれば、トランクにそれなりに荷物が積めるという点もコペンが訴求するユーザーには必要な要素であろう。

 S660が提供する主な価値が「走り」であることに対して、コペンが提供しようとしている価値は「長く使っていく中での可能性」のようなものに見える。その最たるものが、着せ替えできるボディ外板構造だろう。もしかしたら将来的には、ボディパネルのレンタルなんてサービスが起きるかもしれない。こういった方向での拡がりの可能性をクルマの魅力にしようとしている。2015年1月開催の「東京オートサロン2015」では、サードパーティーによるさまざまなボディの着せ替えパターンをずらりと並べてみせた。コペンオーナーであれば、展示されているどのデザインのボディにも着せ替えができるという可能性や期待感を感じさせた。

「コペン」のイメージ画像では「S660」には見られない街中のシーンが登場する「コペン」のイメージ画像では「S660」には見られない街中のシーンが登場する 「コペン」のイメージ画像では「S660」には見られない街中のシーンが登場する(クリックで拡大) 出典:ダイハツ工業

 ユーザーは、実際にはボディパネルの交換なんてやらないかもしれないが、コペンを購入する行為の中には、従来なかった新たな可能性や期待感を手に入れるということが少なからず含まれている。

 ダイハツ工業はコペンを発表した際、「新しいモノづくりの仕組み」と「新しい販売方法の仕組み」をコペンを通じて実践していくと説明していた。この言葉の通り、同社はコペンを通じて、販社任せでないユーザーとの関わり方を模索していることが伺える。S660は「方向性を絞ったツール」、コペンは「ライフスタイルを拡張させるメディア」という表現でキャラクターの違いを表せるかもしれない。

 中身を見ていくと、目指している方向が異なるS660とコペン。軽自動車、2シーター、オープンカーという点では同じだが、実際には競合関係にはないと思える。購入を検討する方は、一度は両車を比べるのかもしれないが、意外と迷い少なくどちらかに決まるのではないだろうか。

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