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» 2015年06月09日 10時00分 公開

再生請負人が見る製造業(8):日本の製造業が共通して抱える課題と生きる道 (4/4)

[野田努/アリックスパートナーズ・アジア マネージングディレクター, 佐々木久臣/アリックスパートナーズ,MONOist]
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8Mイノベーションのさらなる価値

 この「8Mイノベーション」は、企業の経営者や従業員だけでなく、銀行や株主など、社外のステークホルダーに対しても、収益力強化に向けた取り組みについて、納得性のある現状評価(図3)と改善策実行の進捗状況を共有することが可能となる。製造の「現場力」の改善努力が、企業の収益力の改善に直接的に響くことが実感できるのだ。この手法の導入によって、国内外の製造拠点で共通の経営管理を実践することが可能となり、「標準化」と「見える化」が推進されることになる※)

※)出典:「工場“最強化”のためのノウハウ大全」(佐々木久臣著、日経BP社、2013)

photo 図3:ものづくり組織能力(MOC)レーダーチャートの例(クリックで拡大)※出典:「工場“最強化”のためのノウハウ大全」(佐々木久臣著、日経BP社、2013)

グローバル拠点を管理するリーダーの育成

 グローバル拠点の管理のために有効な経営管理ツールとして「8Mイノベーション」を例に取ったが、同時に重要なのは、その拠点を管理するリーダー人材の育成である。国内の拠点に比べ、海外の拠点の管理は、格段に難易度が高い。それは、言語の問題だけでなく、労働慣習の違いや、サプライヤーから調達する資材の品質のばらつきなど、多岐の理由にわたる。優れた現地の経営陣がいてくれれば問題は少ないが、実態は、日本から送り込まれたマネジメントが現地の管理を行うケースが多い。経営が順調であればいまだ問題が表面化しないが、いざ事業環境が厳しくなると、現場は修羅場と化すことになる。

 そのような事態を想定し、優れたマネジャーを前もって育成しておくことが重要だ。業績が悪化した海外拠点のターンアラウンド(事業再建)には、普遍的なリーダーシップスキルが求められる。それは、コスト削減やリストラクチャリング、事業統合、といった共通の課題を迅速に解決できる、いわば「プロフェッショナルリーダー」としてのスキルである。

 そのスキルの主な項目は以下の3点だ。

  1. 問題の本質を見極めるスキル
  2. 施策の実行を迅速に推進するスキル
  3. チームを組成・運営するスキル

 今後、グローバル経済の低成長期への突入と、企業のグローバル化の進展に伴い、各製造業企業でターンアラウンドが必要となる場面はどうしても多くなる。それらの企業の生死を分けるのは、難局を突破するだけのスキルを備えたリーダーを何人そろえているか、ということである。そして、厳しい海外拠点の建て直しをリーダー育成の場として活用することも、日本企業のリーダー育成にとって検討すべきテーマであると考えられる※)

※)出典:「プロフェッショナル・リーダー〜難局を突破する9つのスキル」(野田努著、ダイヤモンド社、2015)

最後に

 「企業再生」という言葉は、拠点閉鎖や人員削減、債務免除などの抜本的なリストラクチャリングをイメージすることが多い。しかし、日本の製造業が直面しているグローバル競争を生き残るためは、日本企業が本来強みとしていた「生産現場の力」を取り戻し、グローバルに展開する生産拠点に同様に展開することが必須である。毎日の地道な努力を重ね、改善を積み重ねていくことでしか、実現しない。そして、それを日本国内だけでなく、海外の生産拠点でも同時並行で行っていくことは、並大抵の努力では実現しない。

 このような取り組みは、グローバル展開のためのM&Aにおける買収後管理・事業統合において重要な意味を持つだけでない。顧客企業が調達も含めた事業のグローバル化を推進するのに伴い、そのサプライヤーである製造業も、グローバル規模で共通の製品を低価格と高品質のサービスで提供することが求められている。そのためには、日本の本社とグローバル拠点が強い連携により一体となって運営される必要がある。

 今回の連載が、グローバル化への険しい道に果敢に挑戦し、日々たゆまぬ努力を積み重ねている日本の製造業へのエールとなれば、われわれ筆者一同も非常にうれしく思う。

筆者プロフィル

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野田努(のだ つとむ)アリックスパートナーズ マネージングディレクター 日本共同代表

日本長期信用銀行、マッキンゼー、ユニゾンキャピタルなどを経て、アリックスパートナーズ入社。企業再生、業績改善、企業買収・事業統合などの多数の実績を残す。


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佐々木久臣(ささき ひさおみ)アリックスパートナーズ シニアアドバイザー

いすゞ自動車 生産担当専務取締役として、モノづくり経営の実践とマニュアル化に務め、日本的モノづくり経営方式を「7M+R&Dアプローチ」として体系化。アリックスパートナーズ参加後は、アドバイザーおよびコンサルタントとして企業再生や基盤強化に貢献。また東京大学大学院経済学研究科特任研究員も務める。




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