デジタルツインを実現するCAEの真価

衝突実験からプレス加工まで、自動車業界で確実に進むCAEの活用ベンダーに聞くCAE最新動向(4)(1/2 ページ)

CAEの最新動向を有力ベンダーに聞く短期連載。自動車業界のCAEインフラを手掛けてきたSCSKと、自動車の構造計算ソフトのスタンダードである「LS-DYNA」をはじめとしたCAEソフトプロバイダーであるJSOLに、自動車業界におけるCAE利用の実際について聞いた。

» 2015年06月12日 10時00分 公開
[佐々木千之MONOist]

 製造業の中でも自動車業界は早くからCAEに着目し、さまざまな研究や製品開発に利用してきた。環境への対応や新たな安全対策機能の実装、一方では企業としての競争力向上のための開発期間短縮や開発コストの低減など、多くの課題を抱える自動車業界において、CAEはどこでどのように使われているのか。製造業に向けたCAE解析システムのインフラ構築と保守運用サービスを提供するSCSK プラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 エンタープライズ第一部 技術第三課 シニアエンジニアの中田温朗氏と、システムプロバイダーという立場で自動車業界やそのサプライヤーに高い付加価値サービスとともにCAEソフトウェアを提供するJSOL エンジニアリングビジネス事業部 CAE技術グループの伊田徹士氏に、自動車業界で進むCAE活用について話を聞いた。

CAEソフトの進化とハードウェアの高速化で活用の裾野が広がる

 自動車関連メーカーでも、以前であればCAEソフトウェアによるシミュレーションを使うのは解析専門の部署や研究部門だけで、主に限られた解析専従者が利用するものだった。しかし、コンピュータの高性能化とCAEソフトウェアが専門家以外でも使いやすく進化したことなどが相まって、徐々に変化し、解析・研究部門だけでなく、いわゆる量産部門や、実験だけをやっていた部署でもCAEソフトウェアによるシミュレーションを活用し始めているという。

JSOL エンジニアリングビジネス事業部 CAE技術グループの伊田徹士氏

 「ユーザーの裾野がすごく広がったと感じています。ソフトウェアの改善もですが、近年のハードウェアの高速化によって、計算時間がものすごく短縮されました。もともとCAEソフトウェアは高い技術と経験を持った専門家が分析するツールという位置付けでした。さらにCAEソフトウェアもすごく進歩していて、例えば『破断』(ものが割れていく過程)など、以前はできなかったことができるようになり、可視化技術が進んだことで、解析の専門家が使いやすくなってきただけでなく、専門ではない技術者にも使いやすくなってきました」(JSOL伊田氏)

 自動車業界では、JSOLが提供するプレス成形解析ソフトウェア「JSTAMP」をインストールしたコンピュータを、工場の製造ラインのすぐ横に設置して、その場で成形解析し、その結果を製造に活用するという事例が増えており、これまでCAEになじみがなかった技術者もCAEを使い始めている。

 CAEソフトウェア製品や、その実際の使い方に関するセミナーの開催数が非常に増えている上、その参加者は、従来多かった大手自動車メーカーや研究所の技術者に加えて、板物成形や溶接に携わる技術者も増えてきている。「『CAEってどういうものですか?』というところからいろいろな話をさせていただいています」(JSOL伊田氏)。

 もちろん、設計現場においても、設計技術者がCADにアドオンされたCAE機能を使って当たりを付けるなど、CADから解析までの一連の流れができている。

 その一方で、製造業におけるシミュレーションの規模が、ここに来てぐっと大きくなっていることを如実に感じているとSCSKの中田氏は話す。

SCSK プラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 エンタープライズ第一部 技術第三課 シニアエンジニアの中田温朗氏

 「われわれはインフラがメインなので何を解析しているかについてお客さまに尋ねることはありませんが、『いま使っている規模の3倍、4倍の計算をしたい』と言われることが非常に多くなりました。構築するシステムのコア数やメモリは大きくなり、ストレージもそれに合わせて高速なものが利用されるようになってきています」(SCSK中田氏)。

 解析規模が増大しているのは、例えばエンジンの解析においてメッシュを細かく切るようになったり、部品を1つずつ解析するのではなく、細かいネジも含め全部組み上げた状態で解析をしたりするなど、現実により近い形で解析が行われるようになってきたためだ。

 現在最大規模の解析では、流体系なら億単位、構造系なら何千万単位といった要素数になっている。計算時間でいえば構造系で丸1日かかるイメージだ。コンピュータハードウェアもどんどん高速化しているが、解析結果を得るまでに待てる時間は以前とそれほど変わりがないため、計算が高速になった分は解析時間短縮よりも、解析精度を上げるために使われているのだ。

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