バズワードを脱した「IoT」はどんな価値を生むのかETWest 2015

IoT導入に向けたリファレンス作りや標準化団体活動に力を入れるインテルが、ETWset 2015にて講演を行った。「バズワードは脱した」という、IoTはどのような価値を創造するのか。常務執行役員 平野浩介氏が語った。

» 2015年06月12日 12時00分 公開
[渡邊宏MONOist]

 関西で唯一の組み込み専門技術展である「組込み総合技術展(ETWset 2015)」にて、インテル 常務執行役員 平野浩介氏が「Intelが考えるIoTプラットフォームの新しい世界」と題した講演を行った。平野氏は「IoTはバズワードの域を脱したが、まだ、横に広がっていない」と現状を分析し、“IoTが当然のようにある世界”を目指す同社の取り組みを紹介した。

 スマートフォンやタブレットだけではなく、身の回りにあるさまざまなものがネットワークによってつながり、そのデータがクラウドで処理され、個人の生活に降り注ぐ――IoTの未来姿を語る際に良く描かれるイメージだが、平野氏は「プロモーションビデオのような未来像は一足飛びに実現しない。実現のためには、技術とビジネスの両輪で推進していく必要がある」と述べる。

photo インテル 常務執行役員 ビジネスディベロップメント 平野浩介氏

 IoT時代の本格化に伴って爆発的に増えるデータへ対処するため、技術面ではムーアの法則がまだ有効だろうとする。“トランジスタの集積度は約2年で倍増し、コストは反比例してゆく”とする有名なこの説は1965年に提唱され、既に50年が経過する。過去には何度も限界を囁かれてきたが、同社では既に5nmプロセスでのプロセッサ生産までも視野に入れており、「向こう10年は、ムーアの法則が続く」(平野氏)と、プロセス微細化によるプロセッサ能力の増大が継続するだろうとしている。

 インテルはこの法則に基づく処理能力の進化をベースに、サーバやPC、タブレット、スマートフォンをはじめ、ウェアラブル機器やゲートウェイなど、さまざまな機器の処理能力を増大させる。なかでも、ゲートウェイはIoTという概念の実体化を行う際に重要な要素となる。エンドデバイスの数が膨大となるIoTの世界で、エンドデバイスが収集するデータを全てそのまま、クラウドに流し込むのは非効率だからだ。

photo IoTが進むなかでゲートウェイの重要度は増す

 平野氏はエンドデバイスとクラウドの中間に位置するゲートウェイでデータの効率化を行う、インテルジェントゲートウェアやエッジコンピューティングといった考え方がこれから重要になるだろうという。

 そして、話題は「IoTのビジネス」に移る。

 2020年のIoT市場セグメントを予測すると、自動車/交通とビルディング/スマートホームが多く占めることになるが、現状ではメリットが分かりやすい産業/エネルギー分野から導入が進んでいると平野氏はいう。同社の関連する事例でいえば、三菱電気との協業では年間11億円のコストカット、米ビルマネジメントサービス企業 Rudinとの協業では建物当たりの管理費用を年間で1億2000万円カットなど、ビジネスにIoTが有効な手段であることが数値化されてきている。

photo 2020年のIoT市場セグメント予測

 インテルは単にチップを供給だけに留まらず、エッジデバイス、ゲートウェイ、クラウド、APIマネジメント、セキュリティソリューションなどIoTを構成する諸要素についてリファレンスを示すとともに、関連する各社と協力し、いわば“IoTの基盤”を提示することで、IoT導入を加速させようとしている。同社が2014年12月に発表した「インテル IoT プラットフォーム」もその流れの一環と言える。

 ただ、各社とIoT導入を進めるに従い、幾つかの問題も表面化してきた。

 問題点として平野氏は「相互運用と標準化」「データの精度(活用度の判断)」「接続性」「ITやレガシーインフラとの統合」「バーティカル市場に適した個別最適化」「セキュリティおよびプライバシー、コンプライアンス」の6点を挙げるが、最大の問題は「IoTの適用できる範囲は非常に幅広いはずだが、現在稼働しているIoT活用例は全て、案件ごとの個別作成であり、横に展開がしにくいこと」だと主張する。

photo IoTをスケールする際に障害となる6要素

 インターネットという共通基盤を用いて効率化、省力化を実現するつもりが、案件ごとの個別開発になってしまっては意味がない。そのため、「Industrial Internet Consortium(IIC)」や「Open Interconnect Consortium(OIC)」といった標準化団体へ積極的にコミットしていく他、ソースコードも積極的に提供していくことで、IoTという共通基盤を作りだし、利用しやすい環境を整えていく方針だ。

 「いろいろなプロジェクトを手伝う内に共通項目が見えてきた。セキュリティや管理機能、データマネジメント、API管理、分散処理、開発者向けツールなど、IoTに関する要素の内、60〜70%は(案件を問わず)再利用可能なものになる。インテルとしては“接続”“セキュリティ”“解析と活用”“予測”“最適化”について提供できるだろう」(平野氏)

 いままで“こんなことができます”“あんなことができます”と技術面についての訴求が目立ち、“実ビジネスになるかどうか”がなかなか見えてこなかったIoTだが、先行しての導入事例ではコストカットや時間短縮といった実利益が数値化されてきた。そうなると、次は「IoTをどのようにビジネスへ生かし、新たな価値を提供できるか」が問われる段階に入ることとなる。

 「コンピューティング能力の増大とネットワークの高速化で、IoTは“あったらいい”ものではなく、“なくてはならない”ものへと変わりつつある。いまは“対価の取れるサービス”を実現可能な段階に入ったところ。加速するIoTで実現される、“価値の創造”を皆さんと考えていきたい」。平野氏はそう述べて公演を締めくくった。

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