モノのインターネットはPLMにどういう変化をもたらすのか製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)

» 2015年06月12日 13時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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メカとエレキとソフトの境界をどこで引くのか

MONOist 具体的にはどのような変化が必要になると考えられていますか。

シュローラ氏 まずは変化のスピードを考えなければならない。例えば設計変更のことを考えればメカは非常に時間がかかる。最終的に製品に反映されるまでの期間を考えると、数カ月や数週間という単位になるだろう。それに比べるとエレクトロニクスの変化は早い。数週間や数日という単位だ。ソフトウェアはそれ以上に早い。数時間や数分という単位で、変更を最終製品まで反映させることができる。

 製品がIoTデバイスになれば、このソフトウェアの領域が従来以上に広がることになるだろう。また、それに伴って、製品の機能をメカで実現するのか、エレクトロニクスで実現するのか、ソフトウェアで実現するのか、という選択肢は増える。さらに、それを製品の中だけで完結する形で行うのか、一部をクラウド化し、データセンターから通信経由で提供する形にするのか、という点でも選択肢が増えることになる(関連記事:IoTで勝ち残るために選ばないといけない“10のポイント”)。

 さらに製品そのものの複雑性が増すという点も生まれる。製品がIoTデバイスになれば、今まではなかった「製品からフィードバックされるデータ」が発生することになる。例えば、製品の稼働状況や故障の予知など、修理やメンテナンスの領域の話だけではなく、製品がどういう環境で使われているかという環境情報なども取得できる。これらを設計・開発やマーケティングに生かすということが可能になるのだ。

 この状況の変化を考えた時に、「メカだけ」「エレクトロニクスだけ」「ソフトウェアだけ」を考えていても仕方がない状況が生まれている。PLMなどの支援ツールにしても、これらを個別に管理していても最終製品の革新や競争力にはつながってこない。これらを合わせて管理し考えられるプラットフォームが必要になる。

ALMとIoT基盤領域でIBMと提携

MONOist Arasが提供するオープンソースPLM「Aras Innovator」では、ソフトウェア領域については、扱えるものがなかったように思います。その対応についてはどう考えていますか。

シュローラ氏 Aras Innovatorでは、作業をするツールに縛られることなく設計データを上流から下流までつなげていくためにマルチCAD対応を進めてきている。メカCADだけでなく電気CADについても対応できるデータモデルの追加を進めてきており、統合管理できるようにしてきた。ただ、ソフトウェアの開発データについては、今までは対応するものがなかった。

 ソフトウェアのライフサイクル管理としては、ALM(Application Lifecycle Management、アプリケーションライフサイクル管理)などがあるが、この領域で多くの実績を持ち、大きな存在感を示しているIBMと協業することを決めた。IBMが提供する「IBM Application Lifecycle Management」と連携できるようにする。インタフェースについては、オープンフォーマットであるOSLC(Open Services for Lifecycle Collaboration)を採用し、誰でも簡単にインテグレーションできることが特徴だ。既にインタフェースツールについては公開しているが、2015年第4四半期(2015年10〜12月)には、製品に組み込んだ形で提供できるようにする。

 IBMとは、ALMにおける連携とともに、IoTに関するIT基盤領域でも提携を行う。IoTでは集めたデータの収集とともに、データの分析を行い、そこから知見を導き出す必要がある。分析・解析領域などでは、IBMは優れたプラットフォームを展開しているので、これを活用していく。

「古い資産」に縛られていては「新しいPLM」になれない

MONOist 協業やM&Aなどを生かしPLMでそれぞれのデータをカバーしていくという方法は競合企業でもとり得る可能性があると思いますが、Arasの強みはどこにあると考えていますか。

シュローラ氏 多くのPLMベンダーにとって、最新のバージョンにおいて、この領域をカバーしていくことは、難しくないだろう。問題は今までに提供してきたPLMシステム資産だ。柔軟で包括的なPLMシステムを実現するには、オンプレミス(自社の設備にソフトウェアを導入すること)型では現実的ではなく、クラウド型で次々に最新機能を導入していくことが求められる。新規顧客などでは新しいシステムを導入することは可能だが、既存顧客を新システムに移行させるには多くの時間が必要になる。われわれはクラウド型のオープンソースPLMシステムを既に8年提供してきており、多くの知見も持っている。これが強みになると考えている。

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