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» 2015年08月21日 10時00分 公開

クルマから見るデザインの真価(6):ヤマハ発動機の“乗る楽器”とヤマハの“愛着の乗り物”、息づくYAMAHAのDNA (3/4)

[林田浩一/林田浩一事務所,MONOist]

ヤマハのキーワードは“愛着の乗り物”

 楽器のヤマハがデザインする乗り物の方はどうだろうか。こちらは、ユーザーである人との暮らしにおけるパートナーとしてのモノの在り方をテーマとしている。「長い時間」「愛着」「あたたかみ」といったところがキーワードとなるだろう。

√(ルート)/モーターサイクル

 乗り物のオリジンである馬を引用しながら、モーターサイクルのある暮らしでの関係性に注目している。

 乗る時間だけでなく、ガレージ、あるいは部屋に置いているとき、メンテナンスするとき、さまざまなシーンを重ねていくLIFE(生活の様子としての「暮らし」に留まらずその人の生き方なども含め「LIFE」と表現した)の中でのパートナーとして。

 モーターサイクルは、一体感をもって乗りこなせるようになるには練習が必要である。この事実を楽器と共通することとして注目し、長い時間を掛けて成長していくパートナーをイメージしたそうだ。

 作品の要素としては、ピアノの内化粧板が使用されたシートからタンクまでの一体フォルム部分が大きな存在となる。走らせてる際には、視線の先を風景のみとし、あえて振動を感じるような構造によって一体感を強め、メンテナンスする際には馬の背中をなでるように、といった具合だ。

「√(ルート)」の外観 「√(ルート)」の外観(クリックで拡大)

0±0(ゼロプラスマイナスゼロ)/電動アシスト自転車

 こちらはエココンシャスな人のロングライフパートナーとしての電動アシスト自転車を提案している。最初の発電機であるファラデーディスクへのオマージュを込めた、銅製の円盤を持つスタイルの充電スタンドとセットでデザインされている。

 自転車本体側には、フレームの真ん中に吊り下がる革製のホルダーにバッテリーが収まり、銅製のフレームを通じてアシストモーターに電力を供給するという、市販されている電動アシスト自転車には見られない構成は特徴的だ。

「0±0(ゼロプラスマイナスゼロ)」の外観 「0±0(ゼロプラスマイナスゼロ)」の外観。左側に並べられたサイレントギターと同じように、楽器のような雰囲気を漂わせている(クリックで拡大)

 それ以上に0±0の特徴として強く感じたのが、まるで楽器のような雰囲気をもつ自転車ということだった。実物を前にすると繊細な美しさを強く感じる。一部を銅素材そのもので見せるフレーム、革製のバッテリーホルダー、シート、ハンドルグリップ、木でカバーされたバッテリーなどの要素だけを見ると工芸品のようでもある。しかし、全体像からは不思議と楽器のような雰囲気を漂わせている。

「0±0(ゼロプラスマイナスゼロ)」のフレーム(左)と革製のバッテリーホルダー(右)(クリックで拡大)
木でカバーされたバッテリー 木でカバーされたバッテリー。「√(ルート)」のピアノの内化粧板を用いたシートと同様に、楽器で使われる木を素材に取り入れているのが、ヤマハのデザインコンセプトモデルの特徴の1つだ(クリックで拡大)

 筆者が一般的な電動アシスト自転車に持つイメージは、樹脂でカバーされたバッテリーやモーターがよく知る自転車のフレームに組み込まれた途端に、自転車というより電化製品の様な印象が強くなるというものだった(個人的にはそこが気になってしまい、市販されている電動アシスト自転車に対する購買意欲がわかないのだが、この0±0は第一印象で欲しいという気持ちが起きた、というのは余談である)。

 ヤマハの川田氏も、電化製品のようなものにしたくなかったと作品解説の際に述べていたが、それは電化製品のように見えることで便利さが先に出てしまうことを避けるという意図がある。

 ヤマハの作品紹介のプレスリリース文はこうだ。「ライダーの目前から計器類を排除したことで、視線の先が風景と一体となります。またシートからタンク上まで流れるようなフォルムは馬をモチーフとし、人と自然と乗り物の一体感を目指しました」(√)。「充電スタンドに設置し、自らペダルを漕いで充電する、充電した電気を家族とシェアする、電池を持ち出し電気で動く楽器や機器を楽しむ。そうした電気とポジティブに向き合うライフスタイルをアシストします」(0±0)。

 今回のプロジェクトで、ヤマハが注目したのは「暮らしを音楽としたら、乗り物は楽器である」という見立てである。ここから、長い時間を掛けて成長していくパートナーであったり、愛着を持って付き合えるあたたかみのあるものだったりという表現に落とし込んでいる。

「√(ルート)」(左)と「0±0(ゼロプラスマイナスゼロ)」(右)の特徴についても、ヤマハ デザイン研究所 所長の川田学氏に説明していただいた(クリックで拡大)

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