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» 2015年09月10日 10時00分 公開

いまさら聞けない 電装部品入門(21):スマートエントリーがあれば鍵を開けなくてもクルマに入れる!? (4/4)

[カーライフプロデューサー テル,MONOist]
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電波障害について

 スマートエントリーに使用されているLF信号やRF信号は、特定小電力無線設備の技術基準を受けています。

 これはすなわち、法に定められた範囲内の電波帯のみ日本国内であれば誰でも使用してOKというもので、各社のスマートエントリーもこの条件下で活用されています。

 とはいえ、スマートエントリー以外にも、携帯電話機や家電用リモコンなど身近にある無線機器は数えきれないほどあります。裏を返せば、無線機器の間で互いの電波帯が干渉しやすい、影響しやすいということであり、さまざまな条件が合致するとスマートエントリーが正常な信号を送受信できなくなることがあります(電波障害)。

 代表的な電波障害の例としてよく言われるのは

「携帯電話機とスマートキーを右手で一緒に持っていたら開錠しなかった」

といった事例でしょう。

 これについては、電波障害が起きた時に原因に思い当たりやすいので、あまりおおきな問題にはなりません。しかし、利用者はもちろん、プロのメカニックも診断に困る特有の事例があるのです。

 それはコインパーキングに用いられているフラップ板作動時の電波や、切れかかった電球がチカチカしている店舗の宣伝用ネオンサイン、電動シャッター、変圧器などです。

 宣伝用ネオンサインに関しては筆者も診断に苦労した経験があります。

 「ごくまれに車両の開錠ができないことがある」との相談に対し、スマートエントリーを構成しているシステムをどれだけ調べても異常なし。それでもやはり、ごくまれに開錠できなくなることに変わりはなく、毎回JAFを呼ぶなどして対応に困るため、どうしても原因を究明してほしいとの訴えでした。

 ふと電波障害のことが思い浮かび、開錠できなくなった時の状況を細かく聞いてみたら以下のような決まった条件下で発生していることが分かりました。

  • いつも出先の特定の場所でしか発生しない
  • 発生時刻はいつも夜である

 そこで、夜間に特定の場所へ行ってみたところ、全てが解決しました。

 周辺を見渡してみると、すぐ近くにあったパチンコ店のチカチカしている看板に切れかかってチカチカしている電球があったのです。そして、夜間にいつも駐車しているその場所ではスマートエントリーの動作が不安定であることを確認し、後日昼間に同じ場所で試してみると全く不安定な動作は見られませんでした。

 これは、電波障害という存在を知っていてもなかなか気付けないと思いますが、目に見えない電波を使って動作させている機器の宿命とも言えます。

 電波は目に見えないという所が診断のネックになります。このため、かなり高額で特殊な機器(通常の整備工場では取り扱えません)を用いて診断をしたこともあります。

 とある企業の社長が、自社の駐車場に車両を保管している時だけ、スマートエントリー動作しないことが多いという訴えでした。

 これは間違いなく電波障害だと思い、その特殊な機器を用意して測定しに行ったのですが、やはり社長が駐車するスペースの脇には大きな変圧器が設置されていました。

街中にある変圧器の例 街中にある変圧器の例

 周囲の電波を測定すると、LF信号で使用している電波帯とかなり酷似した電波が定期的に飛んでおり、スマートエントリーで開錠しようとした際に車外LFアンテナから発信された信号と干渉し、正常な信号のやりとりができなかったと判断しました。

 最後におまけですが、少し変わったスマートエントリーの動作例をお話ししておきます。

 アウターハンドルに内蔵されているタッチセンサーは、静電容量の変化を基に判断していると先述しました。しかしこれは、人の手だけにしか反応しないということではありません。

 経験者もいらっしゃると思いますが、スマートキーを身に付けている状態で洗車などしていると、アウターハンドル部に水が流れることで静電容量が変化し、勝手に開錠や施錠動作が働いてしまうことがあります。

 これは誤動作ではなく、現状のスマートエントリーが用いている静電容量の変化で判断している構造では避けられない事象です。ご理解ください。

 ユニット制御が進化するに従って車両に搭載されるシステムもどんどん便利なものに進化していきますが、それぞれのシステムが持つ便利な所だけではなく、デメリットや欠点なども踏まえて付き合っていくことが必要です。

 とは言いながらも、欠点は欠点であると見過ごさず、さらに便利なシステムを構築できるようなアイデアの探索を開発者の方々には引き続きお願いしたいですね。



 次回はJ-OBD2(車載故障診断システム)について紹介します。お楽しみに!

筆者プロフィール

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



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