トヨタの人工知能開発拠点に元DRCマネジャー「今度は私がバッターボックスに立つ番」

トヨタが「DARPA Robotics Challenge(DRC)」のプログラムマネジャーを務めた経験を持つギル・プラット氏をCEOに、シリコンバレーに新会社を設立する。人工知能とロボットを活用し、新産業の創出を目指す。

» 2015年11月06日 16時06分 公開
[渡邊宏MONOist]

 トヨタ自動車は米国防総省の災害救助ロボット競技会「DARPA Robotics Challenge(DRC)」のプログラムマネジャーを務めた経験を持つギル・プラット氏をCEOに据え、シリコンバレーに新会社「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE(TRI)」を設立する(関連記事:トヨタがシリコンバレー進出、人工知能開発拠点の新会社を設立)

 TRIは設立からの5年間で総額約10億ドル(約1200億円)を投じられ、人工知能に関する研究開発だけではなく商品企画・開発も事業として手掛ける。トヨタ自動車 社長の豊田章男氏はTRIへ「人工知能とビッグデータの活用によって、自動車以外の新しい産業も創出できるだろう」と期待を込める。

photo 「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE」のCEOに就任する、ギル・プラット氏。マサチューセッツ工科大学にて電気工学・コンピュータサイエンスの博士号を取得、2010〜2015年にはDARPAにて複数プログラムのマネジャーを指揮しており、DRCはその中の1つ

 プラット氏は2015年夏にトヨタへ招かれたが、同年11月6日に行われたTRIの設立会見にて「最初は自動運転技術などでライバルを追うために、人工知能を研究しているのだと思ったが、会議を重ねるにつれ、社長を始めとしたトヨタ上層部の考えは“豊かな社会を実現するため”と想像以上だった」と当時を振り返る。

 「TRIでは事故を起こさないクルマ、誰もが移動の自由を享受できるモビリティ、高齢者の尊厳ある老後をサポートするロボットなど、人と協調できる人工知能技術の開発に取り組む。さらには新材料探索や生産管理システムなど、幅広い領域での技術開発を行い、“豊かな社会の実現”に貢献したい」(プラット氏)

 同社は既にマサチューセッツ工科大学のコンピュータ科学・人工知能研究所およびスタンフォード大学のスタンフォード人工知能研究所と、人工知能に関する研究で連携していくことで合意しており、TRIは人工知能の基礎研究拠点としての役割よりも、基礎研究と事業化の橋渡しが期待されることになる。

 TRIの役割についてプラット氏は「基礎研究と製品企画のギャップを埋めること」と明言しており、MTIやDRCで得た経験を元に、人工知能技術とロボット技術を活用した製品やサービスの具体化へ意欲を示す。

 「TRIの当面の取り組みとしては、人工知能技術の自動車への応用となるだろうが、目標とするところは“豊かな社会の実現”“社会的な財産の創出”だ。取り組みの先は長く、まだ始まったばかり。東京モーターショーで豊田社長が“バッターボックスに立たないと『WOW』は起こせない”と言ったが、今度は私がバッターボックスに立つ番だ」(プラット氏)

「Safety」「Accessibility」「Robotics」をキーワードとして掲げるプラット氏 「Safety」「Accessibility」「Robotics」をキーワードとして掲げるプラット氏
photo プラット氏とトヨタ自動車 社長の豊田章男氏。章男氏はTRI設立のタイミングについて、「これまでは会社としても社長としても余裕がなく、“バッターボックスに立つことができなかった”状態だった。このタイミングでの設立が速かったのか遅かったのかは、今後の判断にゆだねたい。ただ、トヨタが織機から自動車に主業態を変えた経験は、自動車以外の事業創出に役立つと考えている」と述べた

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