はやぶさ2から小惑星に降り立つローバー、「ミネルバ2」の仕組み(前編)次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(11)(2/3 ページ)

» 2015年11月17日 07時00分 公開
[大塚実MONOist]

3台のミネルバ2

 さて、冒頭で述べた「初代ミネルバからどう変わったのか」ということについてであるが、結論から言うと「全くの別物」に仕上がっている。イトカワとリュウグウでは、重力、温度、自転周期など、さまざまな条件が異なる。それに加え、初代ミネルバの経験から多種多彩な改良を盛り込んでおり、「完全な新規開発」になったそうだ。

 少しややこしいのだが、「ミネルバ2」というのは、複数のローバーからなるシステムの名称である。JAXAが開発した「ローバー1」と、東北大学らによる大学コンソーシアムが開発した「ローバー2」があり、このうちローバー1については、さらに「ローバー1A」と「ローバー1B」の2台で構成される。つまりはやぶさ2には、計3台のローバーが搭載されているわけだ。

ローバー1(赤)とローバー2(青)の搭載場所 ローバー1(赤)とローバー2(青)の搭載場所

 ローバー1A/1Bの大きさは直径17cm×高さ7cm。円柱形のボディの上下からトゲ(じつはこれは温度計)が出ているスタイルは初代ミネルバと同じだが、初代ミネルバに比べると、かなり平べったい形になっていることが分かる。初代ミネルバのサイズは直径12cm×高さ10cmだったので、体積では4割ほどアップしている。重さは1.1kgだ。

JAXAが開発したローバー1Aとローバー1B。外見は異なる(C:JAXA) JAXAが開発したローバー1Aとローバー1B。外見は異なる(C:JAXA)

 初代ミネルバもそうだったが、移動のための車輪は見当たらない。これはイトカワやリュウグウのように重力が小さな小惑星では、すぐに車体が浮き上がってしまうため、車輪で速く移動するのは難しいと考えられたからだ。詳しくは次回述べるが、ミネルバではモーターを回すことで得られるトルクを利用して、ホップする移動機構を採用している。

 ローバー1Aと1Bは一部で仕様が異なるものの、基本的には同型。2台搭載したのは、「信頼性に対する保険をかけた」(吉光准教授)のだという。米国の火星探査ローバー「Spirit」と「Opportunity」のように、同型の機体を用意することは良くある。2台あれば、何らかのトラブルで1台が失われても、残った1台で運用を継続できるだろう。

 はやぶさ初号機には、ギリギリの軽量化が必要であったため、ミネルバは1台しか載せることができなかった。これが失敗の一因であるとも言えるが、はやぶさ2は打ち上げロケットがH-IIAに変更されたことで、重量に多少余裕ができた。このおかげで、ローバーの複数搭載が実現した。

 一方、ローバー2の大きさは直径15cm×高さ16cmで、こちらも初代ミネルバに比べるとかなり大型化している。形状は八角柱で重さは1kg。4種類の異なるホッピング機構を搭載しているという(本記事では、JAXA側のローバー1について紹介することとし、ローバー2については、また別途紹介したい)。

東北大学、東京電機大学、大阪大学、山形大学、東京理科大学が共同開発したローバー2(C:JAXA) 東北大学、東京電機大学、大阪大学、山形大学、東京理科大学が共同開発したローバー2(C:JAXA)

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