大田区町工場の「仲間回し」が織り成すオープンファクトリーおおたオープンファクトリーとは(後編)(2/4 ページ)

» 2015年12月04日 11時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

学生のコンペ作品を町工場が製品化

 2014年はモノづくりたまごのアイデアを地元の日本工学院専門学校の課題や近隣大学から募集し、コンペを開催した。全63の応募作品から製品化を担当する職人によって14作品が選ばれた後、公開プレゼンを行い、モノづくりの専門家と会場の票で製品化する作品を決定した。

 佐山氏によると、モノづくりたまごは町工場にとって「大喜利みたいなもの」とのこと。学生はデザイン性が高くて「欲しいと思うもの」をデザインするが、詳細な加工技術まで分からない。その“お題”に対して、持っている技術とアイデアを総動員して応えるというわけだ。佐山氏は2014年のコンペの審査員を務めていたが、「あれはカッコいいけど作るの大変だよ」などと隣の審査員と言っていた作品が案の定優勝してしまったとのこと。「でも、とにかく僕らはアイデアが決まったら責任を持って作る。後で作られた工程を知ることで勉強にもなるので」(佐山氏)という。

 担当する職人にとってもやりがいのある企画のようだ。普段の仕事は効率よく淡々とこなしながら、モノづくりたまごはその合い間にじっくりと考えたりするとのこと。どんな工程で作るかや、コストとデザインのバランスなどを考えるのが楽しく、また新しいアイデアを得るなどスキルアップにもつながるという。

 デザインが決まると、誰がどう作るかを割り振っていく。「金属加工か? プラスチック加工か?」からはじまり、金属なら「削る」「溶接する」、そして「このデザインなら旋盤屋か」という風に担当を決めていく。また、普段の仕事で直接付き合いのない人同士でも連携して1つの作品を担当することもある。

 そういった調整の中で、近所に仕事でも組みたい技術を持っている工場を見つけるといったこともあるそうだ。「そういった新しいビジネスの種を見つける機会もあるといった意味で、非常によいテーマだと思っている。しっかり育てていかなくてはと考えている」と佐山氏は言う。また商品を立ち上げていく経験は、今後、商品企画をする機会が来たときに生かせるだろうともいう。

「仲間回し」を体験するツアーも

 モノづくりたまごでも行うような、複数の企業がそれぞれ得意な加工を担当して1つの製品を作り上げる作業は「仲間回し」と呼ばれる。近所に町工場が集まっているからこそできるモノづくりの方法だ。これを実際に工場をはしごしながら体験してもらう「仲間回しラリー」が2014年から始まった。

 2014年のツアーではフライパンをテーマに仲間回しラリーが開催された。ツアーではまず北嶋絞製作所の絞り加工でフライパン本体の皿の部分を作る。取っ手は鈑金工場の多摩川鈑金工業所でプレス切断し、プラスチック製の取っ手カバーをシナノ産業が切削で削り出し、共栄溶接が本体と取っ手を溶接でくっつける。最後に岩崎の食品サンプルを乗せるオプションも用意された。

(左)仲間回しで作ったフライパンの皿。(右)こちらはフライパンの皿の失敗例だそう。

仲間回しラリーに参加した人たち。手に持っているのは仲間回しラリーの完成品。写真提供:大田クリエイティブタウン研究会

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