連載
» 2016年01月05日 10時00分 公開

海外医療技術トレンド(7):医療ビッグデータの利活用で世界をリードするデンマーク (2/3)

[笹原英司,MONOist]

データドリブンアプローチで注目されるデンマークのバイオバンク

 欧州連合(EU)における2014〜2020年の研究開発フレームワーク計画「ホライズン2020」が進行する中で、データドリブンアプローチの観点から、デンマークならではの独創性を発揮しようというイニシアチブの1つが「デンマークナショナルバイオバンク」である。

 デンマーク保健省傘下の国立血清学研究所(Statens Serum Institut:SSI)と連携した組織が運営母体となり、総数1600万件に及ぶ人間の生物学的サンプルを収集し、関連するデータをいつでも分析可能なフォーマットで保存している。デンマークおよび海外の研究者が簡単に利用できるインフラストラクチャを提供することを目的として構築された。

 本連載第2回で、米国や欧州における「プレシジョンメディシン(精密医療)」の取り組みを取り上げたが、デンマークでも、バイオバンクを介して、電子カルテ、生体試料、分子分析、関連する健康医療データなどを統合・ナレッジ化し、プレシジョンメディシンの推進を図る動きが活発化している(図1参照)。

図1 図1 プレシジョンメディシンの基礎としてのバイオバンク(クリックで拡大) 出典:Dr. Stephen Hamilton-Dutoit, Aarhus University 「The Danish Biobank System」(2015年11月10日)

 図2に示す通り、デンマークナショナルバイオバンクは、独自の「デンマークバイオバンク登録」データと既存のナショナルデータベース群が連携して、データソースを構成している。

図2 図2 デンマークバイオバンク登録とナショナルデータベースの関係(クリックで拡大) 出典:Dr. Stephen Hamilton-Dutoit, Aarhus University 「The Danish Biobank System」(2015年11月10日)

 なお、デンマークをはじめとするEU諸国では、個人データのオーナーシップは各個人に帰属するという考え方が基本であり、医療ビッグデータの2次利用を前提としたインフォームドコンセントの取得が必須要件となっている。デンマークの場合、成熟度の高い参加型民主主義を背景として、疫学/臨床研究に対する地域住民の協力率が高い点も大きな特徴である。

 また、デンマークデータ保護庁や倫理委員会の承認を得れば、海外の研究者でもバイオバンクのデータにアクセスすることが可能な仕組みになっている。

ユーザードリブンイノベーションの起点を提供するスーパーホスピタル

 データドリブンアプローチと並んで、デンマークが強みとしているのが、ユーザードリブンイノベーションである。高齢者、障がい者などさまざまな地域のステークホルダーが気軽に参加して一体的に活動できる場を提供する「インクルージョン」の考え方を、医療/介護福祉イノベーション創出のプロセスに導入してきた歴史が、背景にある。

 そして、ユーザードリブンイノベーションに向けた新たな取り組みの1つが、「スーパーホスピタル」構想だ。デンマークでは、全国40カ所にある公立病院を、16カ所のスーパーホスピタルに統合して機能を集約し、広域的に活用する計画が進行している(関連情報)。具体的には、表1のような改革分野と展望を掲げている。

改革分野 内容
新たな病院構造 ・専門機能を統合し、少数の大規模ユニットへ
・最新の物理的環境
・中核病院数を40から21へ
新たな組織 ・救急病棟の統合
・専門家を前面に
新たな分担 ・強力な救急病棟
・地域医療、総合診療医の役割強化
展望 ・医療の連続性改善により、医療の質を改善
・診断速度アップ
・患者の安全性向上
・財源活用の最適化
表1 「スーパーホスピタル」構想の改革と展望

 このような取組を通じて、外来治療を50%向上させ、病床数を20%削減し、入院日数を約3日に短縮することを目標にしている。

 加えて個々の病院は、教育/研究機関や民間企業に対して、イノベーション創出のために、ユーザー参加型実証実験の場を提供する役割も担っている。例えば、スーパーホスピタル構想に参画した日本の日立製作所は、中核病院の1つであるビスペビャー・フレデリクスベー大学病院と共同で、設備データと人間行動データを連携した次世代病院運営などを中心とする新たなソリューション開発に向けた検討を行っている(関連情報)。

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