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» 2016年02月23日 08時00分 公開

生産管理の世界共通言語「APICS」とは(5):APICSを活用する――世界有数の企業も認める“洋魂和才”のSCM基盤 (6/6)

[丹治秀明/日立ソリューションズ東日本,MONOist]
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「洋魂和才」で世界を席巻する海外企業

 今回は、APICSの資格・教育体系と、その効用・事例について見てきた。最近の急速なグローバル化、サプライチェーンの兵たんの拡がりによって、日本の多くの企業は、国、言語、文化の違いを乗り越え、高い人材の流動性を前提とするビジネスを設計するという課題に直面している。とりわけSCMに関わる企業にとって、その課題は深刻で、対応は喫緊の課題である。

 こうした課題に対し、APICSの認定資格・提供教育は、次のような点で貢献すると考えられる。

  1. SCMに関係する人材の標準的な業務・手法・ベストプラクティス知識水準の向上、実務能力の向上
  2. 共通業務・用語理解を基盤とした、国、言語、文化を超えたコミュニケーションの円滑化
  3. 企業のノウハウ・手法の普及、適用、運用の円滑化と流動性の高い人材環境の下での持続性の確保
  4. 業務改革、システム適用、M&Aなどにおける、業務整理・設計、用語定義の標準化と効率化

 ところで、本執筆の最後に申し添えたいことがある。

 CPIM取得者は韓国では累計3370人を数える。一方で、日本のCPIM取得者は53人にとどまっている(2016年1月4日現在)。こうした現状をご存じだろうか。世界の主要ERPはAPICS用語に準拠している一方、国産システムではAPICS用語準拠の報は聞かれない。そして、APICSの資格を昇進・昇給の要件に反映する韓国の大手企業は世界の半導体、白物家電市場を席巻し、APICS用語に準拠するドイツの大手IT企業は世界のERP市場を席巻している。こうした状況を見ると、日本が世界の標準・ベストプラクティス活用の波に置いていかれているという面は、否定できない。

 一方で、APICSの推奨ベストプラクティスの一部はトヨタ生産方式など日本のベストプラクティスに由来するという事実をご存じだろうか。1973年のCPIM資格認定開始以降、APICSは多くの日本人の知らないところで、日本のベストプラクティスを世界へ普及してきたといえる。そして今日、世界有数のグローバル企業は、APICSを通じて学んだ日本の強みを自社の強みに換え、いわば「洋魂和才」で世界を席巻しているのである。

 さらに、世界のAPICS学習者は、日本人の関与しない場所で、日本のベストプラクティスにリスペクトを感じている。筆者自身も中国のAPICSコンサルタントから、日本のベストプラクティスの根底にある哲学について、尊敬の気持ちを示されたことがある。そして、そうした日本のベストプラクティスの普及は、日本人の手によってではなく、APICSとそのパートナー組織や認定講師の手によって進められているのである。

 本稿の読者には、SCMの改善・改革へ向けて、あらためてAPICSの資格・教育の活用を検討いただければと思う。そして、SCMの枠組みを超えて、日本の国益を考える方々に、日本の強みを日本人の関与なしで普及したAPICSの枠組みを理解していただき、日本のコンテンツ輸出のヒントとして活用していただければと考える。その取り組みが、多くの日本人にとって、グローバル化の波に立ち向かうヒントとなれば幸いである。


筆者プロフィル

丹治秀明(たんじ・ひであき)

 APICS CPIM、CSCP、認定インストラクター。

 東北大学大学院理学研究科博士前期過程修了。日立東北ソフトウェア(現 日立ソリューションズ東日本)入社。大手電機メーカー向けグローバルSCM情報基盤構築、SCOR活用業務改善、他SCM関連プロジェクト参画後、現在SCM関連ソフトウェア製品の海外事業開拓に従事。訳書に「意思決定を支えるビジネスインテリジェンス」他多数。


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