レベル4の完全自動運転車はレベル3の自動運転車を賢く育てて実現する自動運転技術 トヨタ常務 奥地弘章氏 講演レポート(3/3 ページ)

» 2016年03月17日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
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最高レベルの自動運転に必要なプロセッサの処理能力は現行PCの2300倍

 車両周辺を検知するためのセンサーフュージョンや自己学習に必要なディープラーニングを行うには、従来よりもはるかにソフトウェアの規模が大きくなり、要求される処理能力も増大する。奥地氏は「自己学習などを含めた最高レベルの自動運転を実現するのに必要なプロセッサの処理能力は、現行のPC向けCPUの2300倍以上になるといわれている。しかし、自動車に搭載できるような現実的なプロセッサの処理性能ははるかに低い。このギャップを埋めるには、制御ソフトウェアとハードウェアの最適化を賢くやって処理負荷を減らす“処理能力の構え”が必要になる」と強調する。

 この最適化では、繰り返し行う処理には専用ICを、ハードウェアの進化によってソフトウェアの変更を加える余地がある場合にはFPGAを、画像処理にはGPUを、GPUでは効率の良くない処理はCPUを使うといった分担を行う。そして、これらの最適化によって、自動運転の一部機能の処理時間を10分の1に低減できたという。

自動運転によるプロセッサの処理負荷を低減するには最適化が必要になる 自動運転によるプロセッサの処理負荷を低減するには最適化が必要になる(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 また検証手段も大きな課題になる。一般道に対応する自動運転システムでは、各国の走行ルールや走行シーンなどさまざまな条件できちんと動作するかを検証する必要がある。しかしこれらの膨大な条件に対して、実車を走らせて検証を行うことは不可能だ。そこでシミュレーションの活用範囲の拡大が求められる。

 例えば、現在採用が拡大している運転支援システムの検証であれば、制御ロジックをモデル化してオープンループシミュレーションに掛ければよい。ここから、車両全体の連携制御に検証の範囲を広げて行くには、エンジン、ブレーキ、ステアリング、メーターなどの各システムのモデル化も必要になってくる。そして、自動運転車になって、実世界環境でどのような動きをするかを検証しようとすると、センサーもモデル化しなければならなくなる。滑らかな自動運転の制御までを視野に入れるとメカ部分のモデル化も求められる。

 奥地氏は、これら“検証手段の構え”の一例として、実世界環境を模擬した外界モデルとカメラの連携シミュレーションの結果を映像で示した。

講演で示した実世界環境を模擬した外界モデルとカメラの連携シミュレーション 講演で示した実世界環境を模擬した外界モデルとカメラの連携シミュレーション(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 講演の最後で奥地氏は、「クルマの付加価値の半分以上はソフトウェアだといわれている。今後運転支援と自動運転が加わっていくとますます重要度は上がっていく。アルゴリズムやそれを支えるICチップの発展も速くなっており、特に人工知能分野は加速度的に進化している。人工知能が囲碁の世界チャンピオンに勝つことなど2〜3年前には考えられなかったわけで、もしかしたら自動運転も想定より早く実現できるかもしれない。ただ、どれだけ頭が良くなっても認識がきちんとできなければ正しい判断に結び付かない以上、自動運転車の普及にはセンサーが鍵になる可能性が高い。トヨタ自動車は、最終的な完全自動運転、無人運転の実現に向けて開発を進めるが、ドライバーによる通常運転から自動運転機能までを切れ目なくサポートして、より安全に貢献できるようなクルマづくりをしていきたい」と締めくくった。

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