富士通テンがミリ波レーダーの開発を加速、2018年に第3世代へ進化クローズアップ・メガサプライヤ(1/3 ページ)

富士通テンは、先進運転支援システム(ADAS)に用いられる77GHz帯ミリ波レーダーモジュールの有力企業だ。2003年に国内で初めて自動ブレーキを搭載した「インスパイア」に採用されるなど、現在までに累計100万個を出荷している。自動運転技術の開発が加速する中、同社のミリ波レーダーモジュールはどのような進化を遂げようとしているのか。

» 2016年06月08日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 富士通テンといえば「ECLIPSE」ブランドの市販カーナビゲーションシステム(カーナビ)が最もよく知られている。この他、自動車メーカーに直接採用されている純正カーナビの事業も大きく“カーナビの会社”というイメージが強いかもしれない。

 自動運転技術の開発が加速していく中で、カーナビに代表される車載情報機器の重要性は高まっているが、それ以上に注目を集めているのが先進運転支援システム(ADAS)だろう。そして同社は、ADASに用いられる77GHz帯ミリ波レーダーモジュールの有力企業としても知られているのだ。

コマツのダンプトラックが初採用

 富士通テンは1970年代から車載ミリ波レーダーの開発に取り組んできた。初採用は乗用車ではなく建機。1997年にコマツのダンプトラックに、60GHz帯のミリ波レーダーが採用された。乗用車に初めて採用されたのは2003年で、ホンダの「インスパイア」に周波数帯は77GHzの車載ミリ波レーダーが採用された。

 インスパイアは、国内で初めて衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキを搭載した車両としてしられている。そのセンサーであるミリ波レーダーは富士通テン製だったわけだ。

 そしてインスパイアに搭載した第1世代の車載ミリ波レーダーから大幅に改良したのが、現行の第2世代品になる。2012年から国内自動車メーカー数社に供給しており、この第2世代品の投入によって同社の車載ミリ波レーダーの総出荷数は約100万個にまで拡大した。

富士通テンが開発してきたミリ波レーダーモジュール 富士通テンが開発してきたミリ波レーダーモジュール。左側から、V字アンテナを使った開発品、コマツのダンプトラックへの採用品、乗用車向けの第1世代品、第2世代品の順に並んでいる。小型化/薄型化が進展してきたことがよく分かる(クリックで拡大)
富士通テンの鵜野雄二氏 富士通テンの鵜野雄二氏

 富士通テン VICT技術本部 技術本部 センサ技術部 部長の鵜野雄二氏は「インスパイアに採用された第1世代品は、モーターを使ってアンテナモジュールを左右に動かすメカニカルスキャン方式を採用していた。第2世代品では、このメカニカルな構造が不要な電子スキャン方式によって大幅な薄型化と軽量化を実現した」と語る。電子スキャン方式は、複数のチャンネルを使って受信を行い、受信チャンネル間に発生する位相差を利用して検知角度を算出する方式だ。

 また送受信回路も高集積化した。2010年以前のミリ波レーダーのほとんどは、個別部品のGaAs(ガリウムヒ素)デバイスを組み合わせて送受信回路を組み上げていたため、回路が大規模で高価だった。かつて、ミリ波レーダーを使った運転支援システムの価格が数10万円以上もしていた理由の1つはミリ波レーダーのコストだった。これに対して第2世代品ではSiGe(シリコンゲルマニウム)ベースのデバイスを採用することで大幅な集積化を果たすとともに低価格化も実現した。

 ミリ波レーダーとしての性能も向上した。検知距離は約150m、検知角度は約±15度で、「特に検知角度の分解能は高い」(鵜野氏)という。

 部品点数の削減にもつながる薄型化と軽量化、送受信回路の高集積化、性能向上による商品力の高まりで拡大した生産規模。これらが相まって、ミリ波レーダーの低価格が一気に進んだ。現在、ミリ波レーダーを使った運転支援システムの価格は10万円を切るレベルにまでなっている。

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