「モノづくりの楽園」は金型の限界を超えた――サイベックオンリーワン技術×MONOist転職(2)(2/3 ページ)

» 2016年07月29日 09時00分 公開
[杉本恭子MONOist]

高い提案力も強み

 今から13年ほど前、海外シフトの潮流が強まるなか、海外に工場を出すのか、国内で頑張るのかという選択を迫られた同社は、国内に留まり、技術力で勝負する道を選んだ。これをきっかけに同社は、弱電部品から自動車部品へと軸足を移した。

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 自動車部品は、素材である板材が厚い。しかも寸法精度への要求も非常に高く、保証も厳しい。笹川氏は「当時は不景気な時代でもあり非常に苦労したが、方針転換を成し遂げられたことは大きい」という。その挑戦のおかげでCFP工法は進化し、現在11ミリの厚板から、複雑形状を高精度で作り出すという稀有の存在になった。現在は同社売上の75%を自動車部品が占めている。

 サイベックは、技術力、高精度に加え、提案力も強み。設計段階から顧客と一緒に作り上げるというスタイルで、顧客の課題やニーズに対して、プレスに適した形状や加工方法、場合によっては素材も含めて提案する。例えば、ルーペのような形状の自動車ブレーキ部品は、単純に見えるが非常に高い精度と鏡面加工が要求される。メーカーではマシニングセンターで一つひとつ切削していたが、これをプレス化したことで、コストを約3分の1に削減した。「一番難しい製品だったかもしれない。プレスでここまでできる技術は他にはないでしょう」と笹川氏。10年ほど前に作ったこの製品は、現在でも月間20万〜30万個生産されている。

超高精度金型を生み出す「夢工場」

 金型はサイベックの生命線とも言える技術。2012年8月には、当時の売り上げを上回る約24億円をかけて、地下11メートルに究極の金型工場を作った。「夢工場」と名付けられた地下工場のコンセプトは「モノづくりの楽園」。超精密金型部品を作るために理想的な環境を実現した。

photo 地下11メートルに究極の金型工場。秘密基地のような真っ白の内装が近未来的だ

 精度の高い金型を作るには、温度変化があってはならない。しかし地上で一定の温度に保つには、非常にコストがかかる。特に同社のある長野県塩尻市は、冬はマイナス18度にもなり、寒暖差が大きい。夢工場の内部は、地中熱を利用して23±0.3℃に保たれているが、地上と比較すると空調のランニングコストは、約40%低減されている。

photo 温度が一定な地下工場が高精度な金型を作る

 また振動も地上の約10分の1で、さらに工場の周りに特殊な防震材を敷き詰め、ほぼ振動ゼロの空間を実現している。「見た目にも分かるほど面精度がまったく違います。想定をはるかに超えた効果があり、私たちもびっくりしました」(笹川氏)。

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photo 地下工場は振動も地上の約10分の1

 他では作れない超高精度の金型なら「金型だけ作ってほしい」というニーズもあろうかと思うが、「全てお断りしています。金型があっても、他のプレス機では金型の精度が活かせないからです」と笹川氏。

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