産業用UAVから始まる、デンソーの新たなロボット事業(1/3 ページ)

デンソーが2016年4月に設立した「Robotics開発室」は、産業用ロボット以外の分野に、同社が培ってきた制御技術をロボットとして展開することを目指している。第1弾製品となるの産業用UAV(ドローン)は、競合他社のドローンにはない姿勢制御と運動性を特徴に、道路橋などの社会インフラ点検用途での展開を目指す。

» 2016年08月16日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 世界最大手の自動車部品メーカーの1つであるデンソー。2015年度の総売上高4兆5000億円を超える同社は、自動車部品の他にもさまざまな事業を手掛けているが、2016年4月からロボットを手掛ける新たな組織体「Robotics開発室」が発足したのをご存じだろうか。

 デンソーのロボットといえば、デンソーウェーブが手掛ける産業用ロボットが広く知られている。プロ棋士とコンピュータソフトが対決する「将棋電王戦」の指し手ロボット「電王手くん」や「電王手さん」としての活躍を記憶している方も多いだろう。

「将棋電王戦」の指し手ロボット「電王手くん」 「将棋電王戦」の指し手ロボット「電王手くん」。デンソーの産業用ロボットがベースになっている(クリックで拡大)
デンソーの加藤直也氏と産業用UAV「HDC01」 デンソーの加藤直也氏と産業用UAV「HDC01」(クリックで拡大)

 新設されたRobotics開発室は、この産業用ロボット以外の分野に、デンソーが自動車部品開発などで培ってきた制御技術をロボットとして展開することを目指している。同室の室長を務める加藤直也氏は「働く人を助ける、つらい部分を助けるロボットの開発を目指す。いわゆる3K(きつい、汚い、危険)の作業をロボットが代替することで、人間がよりクリエイティブな仕事をやれるようにするのが目的」と語る。

 Robotics開発室の設立と同じ2016年4月には、同室の第1弾製品となる産業用UAV(Unmanned Aerial Vehicle、無人航空機)「HDC01」を発表した。新組織がいきなり製品を発表したかのようにも思えるが、実は、2016年4月以前は技術企画部の中でDP(デンソープロジェクト)-Robotics室として約2年間、技術開発や製品化の企画などを進めてきた背景がある。加藤氏は「産業用UAVはあくまで第1弾。この他にも2種類のロボットを用意している」と明かす。

「HDC01」の外観「HDC01」の外観 「HDC01」の外観(クリックで拡大)

ドローンではなくUAV

 HDC01は、道路橋をはじめとする社会インフラの点検に用いる産業用UAVである。UAVと言うといまいちピンとこないかもしれないが“ドローン”と言えば分かりやすいだろう。4個のローターを持ち、垂直に飛び立つ姿は、世間の注目を集めるドローンそのものだ。加藤氏は「ドローンという言葉には、初期に起こった事件や墜落事故の問題などがあって悪いイメージもある。われわれは、人を助ける、人に迷惑を掛けない、人と共存するというコンセプトでロボットを開発しているので、ドローンではなく、一貫してUAVと呼んでいる」と説明する。

 デンソーがUAVの開発を始めたのは2010年ごろ。UAVが飛行する上で重要な姿勢制御技術を中心に開発を進めてきた。ただしデンソーにはUAVの姿勢を制御する技術はあっても、UAVそのものを作る技術はない。そこで、開発パートナーとして協力を仰いだのが、UAVの1つであるラジコンヘリのトップ企業・HIROBO(ヒロボー)だ。模型用ラジコンヘリの大手であり、ヤマハ発動機の農薬散布用ラジコンヘリを製造しているヒロボーだが、いわゆるドローンと同じ形状のマルチコプターは手掛けていなかった。

 両社は2015年7月に共同開発を開始。ヒロボーの無人飛行体のノウハウとデンソーの姿勢制御技術を融合し、同年12月には初飛行にこぎ着けている。「デンソーとヒロボーの両社で、おもちゃではない、産業用のUAVを国産で作ろうという目標も一致したことで、半年という短期間で初飛行できた」(加藤氏)という。

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