「100年防食」を誇る町工場はリーマンショックにも動じないイノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(9)(3/4 ページ)

» 2016年09月02日 10時00分 公開
[松永弥生MONOist]

住工混在問題に早期から配慮

 新免鉄工所は、1916年(大正5年)に創業した。2016年10月で創業100周年を迎える。創業当時は機械工作をしていたそうだ。しかし太平洋戦争が激化したため、1945年に工場を一度閉鎖した。2代目社長は、造船所などで請負の仕事を始め表面加工技術を覚えた。

 1951年に新免鉄工所を再開、1955年に表面処理加工の仕事を受けるため、周囲には何もない野っ原だった西淀川に大型構造物の防食加工ができる工場を建てた。

 最初から、大きなモノを扱ってきたのが同社の強味になっている。自社工場で総重量18トン、最大長さ17m、幅4m、高さ4mのサイズまでの施工を行える。

陸送できるサイズのものなら、なんでも社内工場で塗装が可能 「陸送できるサイズのものなら、なんでも社内工場で塗装が可能ですよ」と新免氏は語る

 新免氏の祖父にあたる2代目社長は、先見の明があった。町が発展し住民が増えはじめたときに、住工混在の問題が起きることを予測し、近隣の住民からクレームが出る前に幾つもの対策をとってきた。

 ブラスト加工は金属の粉じんが出る。そこで、工場に大きな集じん機を取り付けた。騒音対策として、民家に面した工場の壁に防音処理も施した。その上で、早朝は工場を稼働させず、日曜日は休日とした。

 これらの事前対策のおかげで、住宅が密集するようになっても、トラブルを起こさずに長年、仕事を続けて来れたそうだ。こうした環境対策は、従業員の労働環境を守ることにもつながっている。同社に親子2代で働く社員がいる理由の1つだろう。

初期に設備投資をした集じん機 初期に設備投資をした集じん機。巨大なダクトが新免鉄工所の目印だ

 「表面処理加工で大切なのは、下地処理です」と新免氏はいう。身近で分かりやすい例として、化粧に置き換えて説明をしてくれた。女性が化粧をするときには、丁寧に洗顔をし、下地を整えてからファンデーションを塗る。化粧が崩れたからといって、その上から化粧直しをしても、厚塗りになるだけでまたすぐに崩れてしまう。下地をきちんとやりなおせば、美しい状態が長持ちする。

 表面処理加工は、ごまかそうとすればできてしまう。表面がピカピカになっていれば、内部がどうなっているのかは、顧客には見えないからだ。けれど、下地処理を手抜きしてごまかしても、上っ面が剥がれてしまえば、あっという間に錆が生じる。そうした事例があれば、取引先は必ず離れていく。

 ブラスト加工に使う素材が砂から鉄やアルミに変わったり、機械の性能が上がったりしてきたが、「やっていることは、昔から変わりません」(同氏)という。

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