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» 2016年09月05日 09時00分 公開

ロボットに興味がなかったPepperの開発者が新たにロボットを作る理由モノづくり×ベンチャー インタビュー(2/3 ページ)

[朴尚洙,MONOist]

孫さんと自分の差がどんどん開いていくのがつらい

MONOist トヨタ自動車で限定発売のスーパーカー「LFA」やF1レーシングカーの開発を手掛けた後、2012年にソフトバンクに移りました。これはなぜですか。

林氏 トヨタ在籍時の2011年に、次世代リーダーの育成を目的とするソフトバンクアカデミアの1期生に応募しました。そこで、ソフトバンクグループCEOの孫さん(孫正義氏)に出会い、その起業家としての考え方に大きく影響を受けました。2012年にソフトバンクからスカウトされて入社を決断したのも、孫さんのもとで働いてみたいという気持ちがあったからです。

 入社の時は、既に動き出していたロボットプロジェクトの開発リーダーとして声を掛けていただきました。このロボットがPepperになるわけですが、私にとってロボットとの初めての接点と言っていいでしょう。

 もともと、時代がどこに進んで行くか見極めたいと考えている自分があって、いつかPepperのようなロボットが実用化される時代が来るのだろうと漠然とは思っていました。しかし、自分で開発することになるとは思ってもいませんでした。

MONOist Pepperの開発はかなり大変だったと聞いています。どのような苦労があったのでしょうか。

林氏 Pepperのベースになったのは、Aldebaran Robotics(アルデバラン)の研究開発用ロボット「NAO」です。しかし、Pepperの要求仕様は、「人と心が通じる」という孫さんの思いが強く反映されており、NAOとは異なるソフトウェアやハードウェアが必要でした。

 NAOと違って自律的に動く必要のあるPepperは、センシング情報を処理するフローが膨大です。さらにクラウドと連携するというコンセプトもあります。家に置いて人と心を通じ合わせるPepperと、研究開発用のNAOでは要求仕様がけた違いでした。このため、一大手術と言っていいような開発になりました。

 モノづくりをそれまであまり手掛けていなかったソフトバンクの中で、別次元といっていいプロジェクトを進めることも大変でした。

MONOist Pepperの開発が終わってビジネスが軌道に乗るタイミングでソフトバンクを退社し、GROOVE Xを立ち上げました。そのままソフトバンクに残るという選択肢もあったかと思いますが、なぜ独立したのでしょうか。

林氏 ソフトバンクアカデミア時代から含めて4年以上もの間、孫さんからいろんなことをたたき込まれました。サラリーマン経営者ではない、根っからの起業家である孫さんからの薫陶を直接受けると、どうしても起業したい気持ちが募ってきます。

 孫さんは基本的に大事な勝負の最後は、1人で決めてきます。ソフトバンクの人間は、その勝負の瞬間をほぼ共有できません。そういう状況を見ていると、孫さんと自分の差がどんどん開いていくと感じてしまうんです。ソフトバンクアカデミア生として、差が開いていくことはとてもつらい。そこで、孫さんとの差を詰められるように、独立しようと決めたのです。

MONOist ソフトバンク退社からGROOVE Xの設立までの間に、米国のシリコンバレーなどを訪問したそうですね。

林氏 シリコンバレーの他、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボやカーネギーメロン大学などを訪問しました。短い米国滞在でしたがすごく刺激的でしたね。

 シリコンバレーをはじめ米国では、スタートアップやベンチャーを立ち上げてチャレンジする環境が整っていて、本当にうまく回っています。日本のようにチャレンジが“ハラキリ”になることはありません。チャレンジを評価する仕組みや体制があるんです。

 この米国滞在やトヨタ自動車、ソフトバンクでの経験から感じているのが、企業に年率10%の成長をもたらすのと、新陳代謝を起こすのとでは、全く異なる人材が必要になるということです。かつての日本企業は、新しいモノをつくることに注力していました。しかし、新しいモノによる成長が止まったときに取り組み始めたのが効率化です。

 新しいモノづくりをするときにはトライ&エラーが必要であり、これは効率化と相反します。特に大企業では「ちょっとこれやろう」といったことが難しい。大企業に就職するであろう学生が潜り抜けてきた受験勉強は、答えがある問題に最短距離でたどりつく勉強であって効率化の究極です。こういった勉強をしてきた人たちは、効率化や年率10%の成長はできても、新陳代謝や破壊的な進化はできないでしょう。脳の使い方が違うからです。

 であれば、年率10%の成長でもうけている企業が、新しいもうけのタネを作ったスタートアップやベンチャーを買収すればいい。これこそ適材適所ですし、米国はその環境や仕組み、体制がうまく回っています。日本の場合、スタートアップやベンチャーに回るお金の規模がまだ小さいのですが、今後は可能性があると思っていますし、GROOVE Xはその試金石になると考えています。

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