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» 2016年09月15日 11時00分 公開

ロボット開発に学ぶ、モノづくりへのOSS活用ポイント (5/5)

[河本 和宏,MONOist]
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 ロボット研究者にとって使い勝手の良い標準ロボットとソフトウェアプラットフォームの利用は悲願であったから、有名大学の研究で使われているソースコードの公開と併せることで、多くの研究者に周知されることとなった。

 そして、IROS(International Conference on Intelligent Robots and Systems)やICRA(International Conference on Robotics and Automation)といった国際会議にブースを出展し、コアユーザーとなる可能性のあるロボット研究者向けの告知活動に注力していた。また、Willow Garageとパートナーの研究機関は毎月定例ミーティングを開き、研究や開発の情報をお互いに共有することで、強い結び付きを形成していった。

 次に行っていたのは積極的な外部からの人材の受け入れだ。大学院生や研究者をインターンや客員研究員としてWillow Garageに受け入れ、3食無料、頻繁なレクリエーション(無重力体験など)といったWillow Garageの従業員と同様の待遇でもてなし、また、ロボットを自由に使えるように手配した。従業員と昼夜を共にすることで、ROSが成し遂げようとしていることに共感する人が多かったという。すっかりファンとなった学生がその後に大学院へ戻り、企業に就職することによって、大学と企業の研究開発の現場にROS開発者のコミュニティーを広げることができた。

 現在のROSのアクティブなコントリビュータの多くは、PR2が配布されたパートナーやWillow Garageの従業員とインターン、そしてその友人たちだ。Willow Garageの関係者の友人はしばしばオフィスに招かれ、研究者とロボットとビールに囲まれた、知的好奇心をくすぐる自由な環境に虜になっていったという。ともすると規格作りが先行しがちな日本の開発現場とは異なり、ファンの獲得とコアユーザーとの関係構築に時間とお金を使っていたようだ。

企業内プロジェクトでのOSSの活用に向けて

 Willow Garageの成功にならい、TORKでもOSS活用を検討する日本の企業に技術コンサルティングを行っている。カワダロボティクス「NEXTAGE」やデンソー「VSシリーズ」など、幾つかのロボットの制御ソフトウェアのメンテナンスを行い、企業を跨いだユーザー間の交流や日本のロボット開発企業と欧州のユーザー企業によるOSSコミュニティー上での議論を促進することで、ソフトウェアの品質向上に貢献している。目下の悩みの一つは「日本国内からのユーザーの貢献が少ないこと」とのことだ。

「NEXTAGE」 カワダロボティクス「NEXTAGE」による生産ライン作業のデモの様子

 現在、日本企業の大半がOSSについて「利用のみ」にとどまっている。ただ、決してOSS化の素地が無いわけではなく、例えばある家電メーカーでは製造するテレビについて10年以上も前からLinuxをベースにし、ソースコードを公開していたこともあったので、TORKとしては、技術的、社内制度的な障壁は少ないと見ている。

 OSSの活用で価値を生み出している海外企業やプロジェクトは、「オープンにすることで得たいもの」と「そこに向けたステップ」が明確であり、日本企業の社内プロジェクトでの活用においても、同様に「目的とステップの明確化」を意識する必要があるだろう。

 欧米の最近の事例では、EUの自動運転車研究プロジェクト「AdaptIVe」(Automated Driving Applications & Technologies for Intelligent Vehicles)において、BMWの開発にROSが採用されている。

 また、ロボット開発におけるROSの普及率の高さを考慮し、IntelがRealSenseの発表に際してROS用OSSドライバーを自ら用意して普及につなげようとしていることも記憶に新しい。スタートアップやインターネット企業ではない会社もOSSコミュニティーの活用に本腰を入れている。本稿が、その先のOSSコミュニティー立ち上げや拡大管理、そしてコミュニティーへの還元というステップへと挑戦していく企業のヒントや後押しになれば幸いだ。

筆者紹介

京都大学大学院工学研究科を修了。ヒューマンインタフェース設計、自動運転システム開発に携わる。その後、戦略コンサルティング会社のアーサー・D・リトルに参画し、主に自動車、機械、電機、化学の分野で新規事業開発、事業・イノベーション戦略策定、M&A支援などを行う。2015年に渡米し、現在はサンフランシスコの起業家・エンジニア育成プログラムに参加する傍ら、ロボットスタートアップの立ち上げに従事。Silicon Valley Roboticsメンバー。@kazookmtでベイエリアの情報を発信。


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