　実際にスマートグラスを着用してプレゼンテーションを聞いてみた。まずは、1934年にニュルブルクリンク24時間耐久レースで活躍した「W25」に端を発するレーシングカー開発の歴史に始まり、近年の活躍までをおさらい。続いて、レース中のメカニックやエンジニア一人一人の役割分担を紹介した。この他にも、たった2.5秒で終わるというタイヤ交換の様子や、パワートレーンなどの構成について説明を受けた。スマートグラスには画像や動画が投影された。

タイヤ交換の様子を撮影した動画（左）やエンジンを解説する図（右）がスマートグラスに投影される（クリックして拡大）出典：メルセデスAMGペトロナス

　プレゼンテーションを聞き終わってみると、ピットガレージツアーの担当者の懸念通り、音声のみの説明では理解が追い付かない内容に感じられた。

　特に、ピットガレージ内のどこで、どのメンバーが何の役割を担うかという解説は口頭では把握しきれない。「この場所で○○のチェックに関して責任を負うのがこの人」と顔写真とフロア図で説明していたので分かりやすかった。画像中の注釈の文字は細かかったが、はっきりと視認できるので支障はなかった。

　また、過去のレーシングカーやパワートレーンの説明は実際の画像やイラストを見られる方がありがたい。タイヤ交換の様子に至っては、多忙なチームメンバーが実演するわけにもいかないので、言葉で2.5秒と聞くだけでなく動画で見ることができて良いと感じた。

　ただ、画像や動画を投影するのはスマートグラスである必要はないかもしれない。

　BT300は着用しながら周囲の風景も見えるシースルー型だが、プレゼンテーションの台本に沿って編集された1つの映像の中に動画や画像が挿入されており、映像は一方的に流れていくだけなので、ピットガレージ内の景色と重ねて見られるメリットが生かされていなかった。

　ピットガレージ内が狭く混み合っているのは承知の上だが、画面サイズの大きいディスプレイを設置しても、今回のプレゼンテーションと同じことができるだろう。プレゼンテーション映像としてノンストップでスマートグラスに投影するのではなく、見てほしいポイントに合わせて、画像や映像を適宜投影するようにすれば、スマートグラスならではのプレゼンテーションになるのではないか。

　このピットガレージツアーについては、各チームともやり方を模索している最中だという。独自性のある仕掛けで他チームと差別化を図ろうとする面もあるそうなので、今後さらに趣向を凝らして進化していきそうだ。

プリンタも不可欠な道具

写真右手に置かれているのがエプソン製のプリンタ。プリンタはあちこちに置かれている（クリックして拡大）

　F1のチームは、何かを印刷することがとても多いようだ。エプソン製のプリンタがピットガレージ内のあちこちに置かれている。

　例えば、何千点とあるマシンの部品はグランプリごとに大半が入れ替わるという。スペアで管理しているパーツの数も膨大だ。グランプリごとに迅速にマシンを組み立て直し、前回のレースを受けて調整したセッティングに仕上げるには、マシンの組み立て指示書やサイズが大判の設計図、マニュアルなどを印刷できなければ作業が進まない。ここで、エプソンのプリンタが活用されているという。