「脱紙」の流れを覆せるか、エプソンのオフィス向け製紙機が目指すものイノベーションのレシピ(2/2 ページ)

» 2016年12月01日 05時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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世界初を実現した「ドライファイバーテクノロジー」

 セイコーエプソンが乾式製紙機開発の核とするのが「ドライファイバーテクノロジー」である。紙はもともと木材のチップから繊維を取り出し、水に溶かして均一化し、すいて乾かすことで作る。基本的には木材チップから繊維を取り出す工程でも水を用いるため、水とは切っても切れないといえる。しかし、セイコーエプソンが目指したのはオフィスの中での紙資源の循環であるため、オフィスで設置に制約が生まれる給排水を不要なものとすることを狙った。

 そこで開発したのが、完全に乾いた環境で紙を再生するドライファイバーテクノロジーである。ドライファイバーテクノロジーは、主に使用紙の繊維をバラバラにする「繊維化」、これらを結合し強度や白色度を決める「結合」、加圧して成形する「成形」の3つの工程で成り立っている。

photophotophoto ドライファイバーテクノロジーの3つの工程。「繊維化」「結合」「成形」をそれぞれ水を使わずに実現するのが特徴だ(クリックで拡大)出典:セイコーエプソン

水を使わないための技術

photo セイコーエプソン ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長の市川和弘氏

 基礎研究からプロジェクトを推進してきたセイコーエプソン ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長の市川和弘氏は「3つの工程の開発それぞれ大きな苦労があったが、特に今まで水を使っていたのを使わずに実現する繊維化と結合の部分は大変だった。どうやって使用紙を繊維化するのか、均質に結合するのはどうすべきなのかという点が難しかった」と述べている。

 紙を再生するときに、シュレッダーなどで裁断をしてしまうと、紙が粉末になるだけで紙としては再生できない。繊維を残して分断しなければならない点が難しい点となる。ドライファイバーテクノロジーではこれを機械的衝撃で実現している。機械的衝撃の詳細については「明かせない」(市川氏)としている。結合については、独自の結合素材「ペーパープラス」を使用することで、繊維を結合する。プリンタなどと同様、結合用や着色用などそれぞれの用途のペーパープラスを活用することで、さまざまな種類の紙を作り出すことができる。

photophoto ドライファイバーテクノロジーにより繊維化した紙の素材(左)と、結合を行った紙の素材(右)(クリックで拡大)

 PaperLab A-8000では、まず不要な紙をセットし、それを本体内上部に取り込み、繊維化できる大きさに裁断する。その後、機械的衝撃によって繊維化し色の付いた繊維とそうでない繊維を分別。色の付いていないものだけを集めて、ペーパープラスを加えて結合する。その後、本体下部において加圧して、紙として成形する。

photophotophoto PaperLab A-8000の本体上部(赤丸部分)で繊維化と結合を行い下部(青丸部分)で加圧し成形する(左)、本体内の「ペーパープラス」(中央)、本体正面の使用紙の給紙部(赤丸)と再生紙の排紙部(青丸)(右)(クリックで拡大)

 外形寸法は幅2848×奥行き1429×高さ1820mmで重さは約1750kg。本体周辺にはメンテナンス用のスペースが必要だ。騒音については約70デジベル以下としており、「オフィスのバックヤードなどには設置可能だ」(説明員)としている。

 本体の価格はオープン価格だが「2000万円台前半」(エプソン販売)としている。加えて「ペーパープラス」など消耗品の費用、残った繊維くずなどを取り除く定期メンテナンスコストが必要になり、これらの付帯費用を考えると決して安い製品とはいえない。ただ、PaperLab A-8000の紙の生産コストだけを切り取れば、市場の紙の購入価格並みにはなっており、機密文書の抹消コストなどを削減する効果などを生むこともできるとしている。

ペーパーラボプレミアムパートナーを創設

 既に2015年12月の発表から現在までの間に製品化される前の段階で、導入に手を挙げる企業や自治体が数多く存在したという。今回エプソン販売ではこうした企業や自治体をペーパーラボプレミアムパートナーとし、優先的に導入を進めていくとともに、活用事例などをともに創出し、新たな価値について訴求することを示している。また、普及に向け市場作りを進めていくためには、競合企業も含めた仲間作りなども必要になることが想定されるが「競合企業でも要望などがあれば話し合っていきたい」と市川氏は述べている。

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