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» 2017年02月02日 11時00分 公開

IPA/SEC所長対談:IoTは本物か?:坂村健×SEC所長松本隆明(後編) (2/3)

[MONOist]

GPLライセンスの考え方は取らない

坂村 自動車は難しい面があります。車の中身をオープンにすることはなかなかできないからです。私が今やっているTRONというのは、オープンソースから始まったのですが、そのほかに、最近私が力を入れてやっているものに、オープンデータとオープンAPIがあります。あらゆるものをオープンにしようとやっているのですが、自動車はオープンAPIのカテゴリーではないかと思います。オープン APIというのは、車をネットにつないだ時に、色々な人が、そのAPIを使えるということです。つながった車を他の人にオープンにすれば、色々なことができるでしょう、ということですね。

 車を作るところの中は、やはり秘密にしたいことがたくさんあるわけです。なぜトヨタの車がTRONを使うかというと、普通、オープンソースにはGPLというのがあって、Linuxなどでは、OSを直したら、それも公開しなさいと言っています。しかしTRONではその必要がない。TRONは、私たちがオープンにして出したものを、その後トヨタが中を直しても、公開する必要はないんです。TRONがいいと言われるのは、リアルタイム性だけでなく、ライセンス規定がLinuxと違うからです。

松本 普通のGPLライセンスと違うんですね。

坂村 違います。GPLはユーザがプログラマという前提ではすばらしいが、組込みではエンドユーザは一般消費者でメリットがない。しかも、GPLは、組込みの場合には望ましくない。なぜかというと、ノウハウはOSに近いところにたくさんあるんです。そこはメーカは出したくないところでしょう。そこを出さなければ使えないと言ったら、使わなくなる。しかしTRONはそうじゃない。

 先ほどのカメラと同じことです。例えば、レンズだけのカメラを作ったとします。そこにはノウハウがある。カメラを作るパーツを全部オープンにして、カメラを誰でも作れるようにしようといったら、カメラメーカは嫌だというはずです。当たり前ですね。そんなことをしたら企業活動が成り立たない。私が求めているのはそういうことではなく、例えばネットを経由してシャッターが切れるとか、絞りの値がどうなっているのかがわかるとか、そういうことはオープンにしようと言っているのです。車でいえば、例えば今エンジンがどのくらいで回っているのかということです。エンジンをどうコントロールして、どう作るかは教えなくていい。ただ、今のエンジンの回転数がどうなのかとか、タイヤの位置がどう向いているのかとか、そのくらいは公開してくださいと。そういうことがわかっただけでも、自分なりのカーナビを作ることができるようになります。私はそれを推奨しているんです。

 そうしないと、例えば、エンジンのコントロールで、ガソリンの気化比をどうするということをリアルタイムで計算しているプログラムを公開してくれといったら、いやだって言われます。そこは今までずっと研究を重ねてきたところですからね。

 ですから、どこのレベルでオープンにするかは、色々あるわけです。何から何まで、全部見せているのはTRONだけです。OSはもうみんなに見せている。しかし、それを使ったアプリケーションの部分で重要なところは、クローズでもいいと言っている。それがTRONプロジェクトの良いところで、全世界で評価されている理由です。メーカからみれば、信頼性の高いTRONというOSが使えて、それでノウハウは溜まっていく。しかも、自分たちが独自に加えたノウハウは出さなくてよい。そういうすごく「虫のいい話」になっている。私はそれをOKしているんです。そして、もしそれで利益が出たら、ドネイションしてくださいと言っているわけです(笑)。するとみなさん覚えてくれていて、少し利益が出ましたとドネイションしてくれる。それに支えられてプロジェクトを進めてきたわけです。

社会インフラになるデータはオープンに

松本 お話しを伺っていると、今後IoTが本当に根付いていくためのキーワードも、そのオープン性ということでしょうか。

坂村 原則はオープンなのですが、何もかもオープンにすることを求めたら、それは可哀想です。先ほども申し上げましたが、そんなことをしたら、どうやって会社経営を成り立たせていくんだ、ということになってしまいます。そうは言ってない。でも、そういう考えでやっているプロジェクトは少ないんです。

松本 データをオープンにすると、プライバシーの問題が出てくるかもしれないですね。

坂村 データそのものをオープンに、というのは、今世界の流行りですね。アメリカが言い出したのですが、その最初のステップは公共データです。公共データを完全オープンにしろと。私が提唱しているのは、社会インフラになるようなデータは、企業といえども、有料にしても構わないからオープンにしようということです。その観点から産学官共同で作ったVLED(ブイレッド)というオープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構があり、私が理事長を務めています。

松本 公共データというとどういうものですか?

坂村 まず、ガバメントのデータですね。またそれとは別に、公共交通オープンデータ協議会というのを作って、私がやはり会長をやっています。そこではJRなど首都圏乗り入れの鉄道、JALやANAなど、交通系の会社に全部入ってもらっていて、例えば交通の時刻表のデータとか、駅のデータ、それから動的データですね。山手線が今どこを走ってるのか、というようなことをただでなくても良いので、オープンにして欲しいといっています。

松本 例えばどの列車がどこにいるか、という情報ですね。

坂村 それをリアルタイムで集めて、サーバから、無料のものもあれば有料のものもありますが、とにかく公開するわけです。非常に大きなデータです。その協議会には、東京メトロとJR、更に富士通や日本電気も理事になってもらっています。

松本 データをどう活用していくのですか?

坂村 活用策の検討のために、オープン・データ・コンテストというものを開きました。東京メトロと共同で動的データ、地下鉄の動的データをオープンにして、わずか3カ月くらいの募集期間だったのですが、実に2800件の応募があり、現実にプログラムを作ってApple StoreやAndroidに入ったものが280件ありました。もしも企業が普通に開発を進めたら、およそ5億円はかかったのではないかといわれていますが、それを完全オープンにして、一等賞金200万円でやったわけです。オープン化するのにももちろんお金がかかりますから、200万円だけではないのですが、5億円の仕事ができたとみんなびっくりしていました。

松本 200万円で済めば、本当に安いですね。

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