IoTは本物か?:坂村健×SEC所長松本隆明(後編)IPA/SEC所長対談(3/3 ページ)

» 2017年02月02日 11時00分 公開
[MONOist]
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データのオープン化で何ができるか

坂村 面白いアイデアがたくさんありました。動的データを出すと、どんないいことがあるかということについて、私がよく出すたとえ話があるのですが、それを本当に作ってくれた人がいた。どういうものかというと、例えば1分単位で情報を送ってくる動的データによって電車が遅延しているかどうかがリアルタイムでわかりますね。そうすると、明日は出張だから7時発の新幹線に乗ることにして、そのために5時に起きればいいと考えて目覚ましをかけたとする。ところが翌朝、何か事故があって電車が止まってしまった。既定の路線で新幹線の出発駅に行くことはできないから別の経路で行く。すると予定より1時間早く5時に家を出なければいけなくなる。そのとき、5時にセットしていた目覚ましが、自動的に4時に変更されて叩き起こされる、というものです。つまり動的タイマーができる。電車が遅れている。復旧の見込みは立っていないという情報が、動的データが公開されていれば分単位で分かる。だから4時に起こすので、ごめんなさい。早く別の電車で行きなさいというインテリジェントな目覚まし時計ができるわけです。

 今私がTRONでやっているのは、そんなことばかりです。インテリジェントビデオもそのひとつです。例えば、今日は野球の試合に出かけるから、あるTV番組をビデオに録画しておこうとセットした。しかし、もし雨が降ったら、もう野球はできないので、うちでゴロゴロしようと決めている。すると、雨が降った場合には、録画は自動的にキャンセルされて、その時間になるとテレビがつく。もし雨が降らないで晴れていた時には出かけているから、想定通り録画機能が働くと、そういうものです。

 そのためには、データをすべてオープンにして、プログラミングが自分でできるようにすべきなんです。また、そのために小学生の時からプログラムを教えて、そういうものを自分で作ってみたらどうかと言っている。

 先ほどの目覚ましも録画タイマーも、初歩のプログラミング能力がありオープンデータがあったら、数十行でプログラムが書けてしまいます。プログラミングを早く必修にすべきなんです。そういうことができたら、あらゆることで役に立つ。先ほどの例は遊びのようなものですが、例えば、スマートアグリのようなものがあります。オランダはEUに加盟した途端に、それまで農業大国だったものが、あっという間に流入したスペイン産の安い果物、野菜によって、農業が全く駄目になりました。そのとき、どういうことをしたかというと、農民が危機感を持ってまず農地統合をやった。それから植物生産の工場化をやらないとだめだということで、コンピュータの導入をどんどん進めた。

 なぜこれがうまくいったかというと、農民自身、コンピュータのプログラムが書けたからです。どこか外部の専門業者に頼むという考え方は古い。自分でプログラムを書けなければ迅速で有効な対策はとれない。日本も新しい時代を作るためには、そういう新しいビジョンと哲学をできるだけ多くの人が理解し、なぜこういうことをしなければいけないのか、ということからやらないといけないと感じています。

情報教育にプログラミングを

松本 しかしプログラムが書けても、そういう新しいサービスを思い付くような、これとこれを組み合わせると、こういう新しいことができると発想できなければいけませんね。

坂村 そういうことをやっている人は、何かもっているんです。農業なら農業をやっている人。販売ならものを売っている人。そういう人たちは、それなりに「こういうことができたらいいな」ということは考えています。問題意識がないのは、IT従事者くらいではないですか(笑)。ほかの業界の人たちは、みんなそれなりに問題意識を持って、何とかしたいと考えています。

 問題は教育にもありますね。情報処理の教育の仕方も間違っている。入試に出ないから勉強しない。入試の問題にも、義務教育で情報関係を必修にしているにもかかわらず、出ない。受験に出ないと、みんな勉強しない。悪循環です。そのことも言っています。受験の中に取り入れないのはおかしいと。

松本 IoTをもっと広げて行くためには、教育や人材育成の話もかなり大きいだろうと思います。

坂村 そうですね。それと、もう一つ言われているのは、今の義務教育でやっている情報教育が間違っているということ。ワードやエクセルの使い方をいまだに教えているんです。こんなもの教える必要はないでしょう。根本的な原理を教えるべきです。アメリカは今年から小学校でプログラミングを教えることにしています。イスラエルは以前からやっていますし、イギリスも去年から始めた。日本だけ取り残されているんです。

松本 教える人の不足もあるでしょうね。そういうことを教えられる人間がいないので、仕方がないから、ワードやエクセルの使い方ぐらいしか教えられない。そこも変えていかないといけないですね。坂村先生の後に続くような人を、どうしたら日本からどんどん輩出することができるのか、課題は大きい。今日は、大変興味深いお話をありがとうございました。

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