VR空間でクルマをデザイン!? プロフェッショナルVRがもたらす新世界とはNVIDIA Pro VR Day 2017基調講演レポート

VRは既に現実のものとなっている。しかし、産業用途の“プロフェッショナルVR”では、エンターテインメント以上の精度や性能が要求される。現在、VRはどこまで進化しており、これから私たちはどのような体験をすることになるのだろうか。VR活用の将来像や先進事例について、NVIDIAのバイスプレジデントであるボブ・ベティー氏が語った。

» 2017年02月27日 10時00分 公開
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 2017年1月26日、秋葉原コンベンションホールにおいて「NVIDIA Pro VR Day 2017」が開催された。VR(仮想現実)ソリューションベンダーによる講演、また各社のVR体験ができるコーナーも設けられ、会場の熱気からVRソリューションへの大きな期待が感じられた。本稿では、NVIDIAのバイスプレジデント 兼 ゼネラルマネージャー プロフェッショナル ビジュアライゼーションを務めるボブ・ペティー(Bob Pette)氏の基調講演「NVIDIA QuadroグラフィックスによるVR最適構成とVR導入の最新情報」についてレポートする。

「もはやSFではない」

NVIDIA バイスプレジデント 兼 ゼネラルマネージャー プロフェッショナル ビジュアライゼーションのボブ・ペティー氏 NVIDIA バイスプレジデント 兼 ゼネラルマネージャー プロフェッショナル ビジュアライゼーションのボブ・ペティー氏

 VR、AR(拡張現実)が実現してくれるのは、例えば「最初からフルスケールでクルマを設計する」とか、「体育館で実物大のクジラがジャンプする」とか「居間を使って『マインクラフト』を楽しむ」とか……こういう世界。「5年前なら、こんなことは『SFの世界だ』と言われただろう。2年前でも『まだ何年も先のこと』と思ったかもしれない。しかし今、現実にこれらは私たちの世界に入ってきていて、リッチな体験ができる時代になっている」とペティー氏。夢の世界と思っていたことは、急速に身近な世界となりつつあるのだ。

 ペティー氏自身は、VRの世界で約30年仕事をしているそうだが、近年の状況について「多くの業界においてVR、ARは現実に使われるようになってきている。より多くの、より大きなデータのビジュアル化や、現実と全く同じものの再現が要求されており、そのためにはAI(人工知能)やディープラーニングも重要になっている。特に、『Oculus Rift』や『HTC Vive』のようなヘッドマウントディスプレイ(HMD)型のVRシステムをはじめ、より小型のデバイスでVRを実現するためのツールやアプリケーション、テクニックはここ2年の間に大きく進歩した」(ペティー氏)と語る。

 VR、AR市場は、2020年までに800億米ドルに成長するといわれており、ゲームやスポーツ、映画などのパーソナルエンターテインメントは、その約10%と予測されている。つまり残りの約90%、700億米ドル(以上は“プロフェッショナルVR”、すなわち産業用途の市場となることを意味する。特に大きく伸びている分野としてペティー氏が挙げたのは、デジタルコンテンツの製作、医療、建築、設計、製造、コラボレーションだ。

プロフェッショナルVRで大きく伸びている6つの分野 プロフェッショナルVRで大きく伸びている6つの分野

 「VRの最も大きなチャンスは何か」とよく聞かれるペティー氏。同氏は「製品デザインと建築だろうと思う。しかしVRは作る部分での活用より、売るため、あるいはマーケティングにおいて、大きなチャンスがあるのではないか」と答えているという。

VR4つの課題、それを解決するSDK

 ではVRを活用していく上で、現時点でどんな課題があるのか。ペティー氏は「グラフィックス/ディスプレイ」「オーディオ」「タッチ/フィジックス」「キャプチャー」の4点を指摘する。

 まず「グラフィックス/ディスプレイ」。HMD型VRシステムでは、両眼に移すVR表示のために画像をゆがめたことで見えにくくなる周辺部も、人間の目であればぼやけてしまうような遠方も、同じ解像度で再現される。なおかつ、2つの画面の重なる部分を適切に混ぜ合わせるブレンディングもしなければならない。これらをユーザーが違和感なく感じられるフレームレートは90fps(片眼当たり)であり、そのためには相当な処理能力を持つGPUが必要になる。NVIDIAの最新GPUボード「Quadro P6000」や「Quadro P5000」であればそれが可能だ。

 次に「オーディオ」。例えば、目の前にいる人の声が、前方からではなく左側から聞こえると脳は混乱してしまう。音の質だけでなく、方向、伝播性、空間によるエコーなどの相互作用も実現されなければ、本物のVRにはならない。

 そして「タッチ/フィジックス」。何かに触れたときの感触も必要だ。特に手術にVRを活用する場合、メスを握った手が組織を切っているのか、骨に当たっているのかなどがフィードバックされなければ、深刻な自体になってしまう。また火の熱さ、水の流れ、煙のけむたさ、毛の柔らかさといったフィジックスも本物のように感じられなければならない。

 そしてこれらをVR空間で再現するためのデータを獲得する「キャプチャー」は、動画サイトにアップロードするようなパーソナルエンターテインメントレベルのものではプロフェッショナルVRには使えない。会議中に誰かが立ち上がる、手術中に何か起きたといったことが分からなければならないからだ。つまり現実の画像と、レンダリングの画像が必要ということになる。

 NVIDIAの「VRWorks」では、これらの課題を解決するためのSDKを提供している。よりリアルでスムーズ、そして人によって問題になる“VR酔い”が起こらないようにするには欠かせない技術なのだ。

NVIDIAのVR向けSDK「VRWorks」の機能 NVIDIAのVR向けSDK「VRWorks」の機能

自動車業界におけるプロフェッショナルVRの活用事例

 ペティー氏は、自動車業界におけるプロフェッショナルVRの活用事例を2つ紹介した。

 1つは、自動車メーカーの事例だ。6700万ポリゴンという膨大な車両の設計データをリアルタイムにVR空間で表示し、片眼当り90fpsの滑らかな表示を実現している。コントローラーを操作していくと、車両のボンネット内部や、さらにはエンジンの内部までもが忠実に再現されていることを確認できる。「クルマのメンテナンス方法を教えたり、機能や物理的なフィッティングを検証したりする場合には、たとえボルト1本であっても不要なポリゴンは何一つない」(ペティー氏)。

 もう1つは、クルマの設計を、PC上で図面や3D CADを使って行うのではなく、最初からフォトリアリスティックなVR空間にデザイナーが没入し「ジェネレーティブデザイン」によって進めていく事例である。

 ジェネレーティブデザインでは、車両の重量、スピード、馬力、車の種類などの基本的な設定を基に、ディープラーニングによる分析でコンピュータが最適なデザイン案を提案する。デザイナーは、デザイン案を選定した上で設定を調整し、コンピュータはその調整に合わせてデザインを最適化していく。この繰り返しの後に、3Dプリンティングで試作する。「これからのVRでは、皆さんもAIやディープラーニングを活用することになるだろう。VRの世界だけでいくつもの選択肢を試し、商品が進化していくという世界が来る可能性がある」とペティー氏は言う。

“ジェネレーティブデザイン”を活用したVR空間内におけるデザインのイメージ “ジェネレーティブデザイン”を活用したVR空間内におけるデザインのイメージ
“VR READY”のマーク “VR READY”のマーク

 NVIDIAでは“VR READY”としてQuadroグラフィックスを搭載するワークステーションに対する認証を行っている。認証を受けたコンピュータは日々増加しており、「ますます増えていくので、注目していて欲しい」とペティー氏。VRを実現できる環境は、急速に広がりを見せている。

 ペティー氏は「モデルはもっと大型になるだろうし、VR空間の中に入ってくる人の数ももっと増える。その人達の声も聞こえ、表情も分かり、現実とほぼ変わらない世界が生まれてくる。スマートフォンでビデオを見たり、新しいクルマのモデルを見たりするだけでなく、これからはVRでモノを作り、買い物もできるという世界を体験することになる。今できることだけでなく、2年後、3年後に何ができるのかを考えていただきたい」と今後の展望を述べ、講演を締めくくった。

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提供:NVIDIACorporation
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年3月26日