特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

「IoT導入の壁」をフレームワークとして活用する先行事例から見る製造業の「IoT導入の壁」(前編)(3/3 ページ)

» 2017年03月14日 11時00分 公開
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4.会社・組織の壁(組織間[企業内、企業間]のコンフリクトの調整)

 IoTデータを集約して最適化を図るためには、企業内の組織間、及び、企業間での業務面でのルール整備が必要になる。

 この壁に関して、解決が必要な「整備事項」として以下が上げられる。

4−①:全体最適に向けた企業内でのルール作り

 従来縦割りで活動している企業内組織の中で、データを共有し、全体最適に向けて、意思決定の権限に制約を加えるためには、企業内でのルール作りが必要になる。

4−②:Win−Winの関係を作るための企業間のルール作り

 利益が背反する可能性のある企業間でデータを共有してWin−Winの関係を作るには、データのセキュリティ管理や利益の裁定のための調整など、企業間のルール作りが必要になる。

5.技術・スキルの壁(熟練技術者の属人的技術・スキルの活用)

 熟練技術者に蓄積された製品固有技術の知見や分析ノウハウを全体で集約・共有化し、ブラックボックス化したナレッジを見える化し、システムに組み込んで広く活用可能とすることが必要になる。

 この壁に関して、解決が必要な「整備事項」として以下が上げられる。

5−①:製品固有技術の知見と分析ノウハウの集約

 各部署が保有する製品固有技術の知見(ナレッジ・情報)を集約して活用できるようにする。また、それらを利用する分析ノウハウについても共有し活用できるようにする。

5−①:熟練技術者の属人的ナレッジの見える化・デジタル化

 IoTの目標として、従来は高スキルの人間に依存している判断業務を、データの分析により代行することを目指している。このためには、属人化しているスキルを見える化し、システムに組み込む必要がある。

6.運用上の壁(業務プロセスの改革と継続的改善)

 IoT活用を実現する上では、分析の精度や人間のデータ活用スキルを継続的に改善していくために、業務プロセスにPDCAを組み込むことが必要であり、そのための新たな役割や業務を設計し実行することが必要になる。

 この壁に関して、解決が必要な「整備事項」として以下が上げられる。

6−①:分析モデルの継続的改善、精度向上

 IoTを活用した分析モデルは、初めから最適化されているものではなく、データの蓄積を受けて、段階的に精度を上げていく。そのため、継続的な分析や改善のための役割や業務が必要になる。

6−①:データ分析を組み込んだ業務プロセスの設計と定着・改善

 分析結果を受けて、設備設定や業務手順を継続的に判断・評価して見直し、改善していく役割や業務が必要になる。

抜け漏れの無い検討のために

 これら6つの「IoT導入の壁」に基づいて、自社の現状を整理することにより、整備事項を抜け漏れなく抽出することが可能となる。現場スタッフやシステムスタッフが検討主体となると、「1.システム環境の壁」にフォーカスしがちとなってしまうが、それ以外の壁にも着目し、しっかりと整備を行わなければIoT活用として狙った効果を生み出すことが難しくなってしまうだろう。



 後編では、この「IoT導入の壁」のフレームワークを生かしつつ、より具体的にIoT活用の方向性を「IoT導入計画」として落とし込むためのポイントについて解説していく。

プロフィール

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久野 俊一(ひさの しゅんいち)株式会社日立コンサルティング 産業コンサルティング本部 シニアマネージャー

外資系大手コンサルティング会社2社でプロジェクトマネージャー/SCMサブジェクト・マター・エキスパートとして活動した後、2010年に日立コンサルティング入社。SCM計画領域のエキスパートとして、数々のグローバル製造業の改革支援コンサルをプロジェクトマネージャーとして担当。2014年度からは日立コンサルティング所属本部の「IoTを活用したモノづくり変革とサービス化」プロジェクトの中核メンバーとして参画。「IoT構想策定コンサルティング」手法の開発を担当。生産領域を中心としたスマートファクトリーなど、IoT構想改革に日立社内外で参画。

株式会社日立コンサルティング
http://www.hitachiconsulting.co.jp/

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