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» 2017年03月13日 06時00分 公開

クルマづくりは分子レベルから、「材料をモデルベース開発」「最短5分で耐食試験」材料技術(3/4 ページ)

[高根英幸,MONOist]

SPring-8が自動車部品の進化に貢献する

 SPring-8について、ご存じない方のためのご紹介しておくと、これは強力なX線ビームを発生できる巨大設備である。東京ドームの3倍の敷地面積の中にはX線や赤外線などを作り出す電子の加速器群があり、そこから発せられるX線ビームを利用するために公的機関や大学、企業などが研究室を設けている。

 この共同研究については2016年6月に発表済みであるが、先頃ようやく共同研究の専用装置が完成した段階であり、これから運用を開始して研究開発が進められるそうだ。そして、この世界最高レベルの実験施設が使えるようになることで、シミュレーション上でしか分からなかったことが「見える」ようになるというのである。その活用例が排ガスを浄化する酸化触媒の解析だ。

分析を行う素材の例。触媒上の貴金属が動く様を実際に見ることができるようだ 分析を行う素材の例。触媒上の貴金属が動く様を実際に見ることができるようだ(クリックして拡大) 出典:マツダ

 「従来は表層を見ることしかできなかったのですが、触媒のセラミックを通り抜ける排気ガスの流れまで分析することが可能になります」(藤氏)。これにより貴金属成分の最適化などが期待できるという。実際に作動している状態での分析が可能になることから、さらなる機能の向上を見込んでいる。

 「この他にも稼働中のバッテリーの電極などの様子も見ることができるので、どうなっているか分かるようになります」(藤氏)。化学反応の実際の動きを解明することで、さらに効率の高い設計を行うこともできそうだ。

 とはいえ、これらの分析によって開発が進められるのはこれからの話である。これと同時に進めていくのが、CAEをフル活用したモノづくり技術だ。スカイアクティブではシャシーや部品レベルで行っていたシミュレーションを、材料の分子レベルでのシミュレーションによって狙い通りの物性を実現し、強度計算を行うのである。

計算科学技術により分子から強度計算を行うイメージ(左)。CAEによる素材の強度試験シミュレーション。実際の実験では分からない、分子レベルの結合強度を判別できる(右)(クリックして拡大) 出典:マツダ

 分子動力学に基づいてPP(ポリプロピレン)の分子レベルでの強度を計算し、補強材であるガラス繊維との界面強度を計るシミュレーションを見せてもらった。「バンパーなどは、分子の1億倍くらいの質量になってしまいますから、スーパーコンピュータの京を使ってもちょっと難しいと思います。ポスト京でようやく実現できるんじゃないでしょうか」。

 これまで、マツダはハイテン材(高張力鋼板)やエンプラを活用してきたし、新型車の開発の一環で新しい素材や製法を編み出してきたこともあっただろう。しかし、クルマの基本性能を根本から引き上げるための素材開発となれば、その困難さは比べようもないほどだろう。マツダの新たな挑戦に期待したい。

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