「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

自動運転車と5Gがもたらす「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」Mobile World Congress 2017レポート(前編)(1/4 ページ)

2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。自動運転車と5Gが交錯した「Mobile World Congress(MWC) 2017」の展示を中心に、それらの動向を考察する。

» 2017年03月21日 11時00分 公開

 2017年1月に米国で開催された家電の祭典「CES 2017」、同年2月にスペインで開催されたモバイルの祭典「Mobile World Congress(MWC) 2017」で共通のキーワードとして注目されたのが「自動運転車」「5G」「AI(人工知能)」だった。

 筆者はここ数年CESに参加しているが、CES 2017ほど通信(5G)の話が語られたことはなかった。それは自動運転と同様に「2020年」の商用化を目指す5Gにより、自動運転におけるサービスの幅が広がる事への期待が集まっているからといえる。

 本稿では、自動車業界と通信業界の提携の動きにフォーカスし、それがもたらす事業機会の拡大と競争環境について、前後編に分けて考察する。

自動車業界とICT業界の連合体「5GAA」が発足

 2016年10月には自動車業界と通信業界、そしてICT業界が密接に協力しあうことで、コネクテッドカー/自動運転車の領域で5Gを用いたサービスの開発を目指す連合体「5GAA(5G Automotive Association)」が発足したことは象徴的だ。このような流れも、両業界が同じ方を向いて進み始めたことを物語っており、それはMWC 2017にも色濃く出ていた。

5GAAの発足会見の様子 5GAAの発足会見の様子

 そのような折、MWC 2017の会期中である2017年2月27日、世界の通信事業者/ベンダー22社が、当初2020年を目指していた5Gの商用化を2019年に実現するよう3GPPに働きかけていくという共同提案に合意したことを発表した。これにより、現在5Gのユースケースとして象徴的なコネクテッドカー/自動運転車の実現性がさらに高まったようにも感じられる。

 互いに切っても切れない関係となってきた通信業界と自動車業界の関係性を示すかのように、最近のMWCでは、自動車メーカーの存在感が年々高まりつつある。MWC 2017では、フォード(Ford Motor)、BMW、セアト(SEAT)、プジョー(Peugeot)、メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)などの自動車メーカーが出展していた他、ジャガーランドローバー(Jaguar Land Rover)や日産自動車、スカニア(Scania)などが、協業するICT企業のブース内に車両を配置していた。

 また、2016年11月にサムスン電子(Samsung Electronics)に買収された、自動車向けにオーディオや部品などを展開するハーマン(Harman)も、同社の単独ブースを構えた他、協業するエリクソン(Ericsson)ブース内にも展示を行っていた。

「MWC 2017」のハーマンブースより 「MWC 2017」のハーマンブースより。家庭内で動画を「Entertainment Hub」にダウンロードすることにより、車内でその動画コンテンツを視聴できる。SIMカードを搭載しており、Wi-Fiスポットとして役割も果たす(クリックで拡大)

 以上のようにクルマは、MWCで最も勢いのある分野の1つと言えよう。その一方で、各社の取り組みから見えてきたキーワードがある。「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」だ。

ICT企業が自動車業界にもたらす新たな競争

 これまで参入障壁の高かった自動車業界におけるIT化の流れは、通信事業者およびIT企業にとっても新たなビジネスチャンスとなるため、各社ともこの市場への参入を加速している。

 CES 2017でその象徴として見られたのが、レポート記事の『「CES 2017」は自動運転車と人工知能のユートピアだった』でも冒頭に触れた、NVIDIA、インテル(Intel)、クアルコム(Qualcomm)による自動運転分野への参入強化の動きだ(表1)。

表1 表1 自動運転分野への参入を強化するNVIDIA、インテル、クアルコムの比較(クリックで拡大)

 これらの企業はチップメーカーであり、クルマを「新たなチップ搭載デバイス」と見なして、この分野での覇権を握るべく、自動車業界との提携の動きを強化している。一方でグーグル(Google)やアップル(Apple)、ウーバー(Uber)やローカルモーターズ(Local Motors)など、IT企業やベンチャーによる同市場への参入の動きが、自動車業界にとってこれまでなかった新たな競争を生み出す結果となっている。

 このようにIT企業同士の競争や、新規参入者と既存自動車メーカーの競争など、競争領域は複数ある。ICTの視点で現在注目されているのは「インフォテインメント」「テレマティクス」「Mobility as a Service(移動のサービス化)」「V2X通信」などだ。

 さらに自動運転になると「AI(人工知能)」「3D高精度地図」も加わる。自動車メーカーがこれらの要素技術を取り入れるためには、通信業界やIT企業との連携は必須となる。それが、CESやMWCといった、いわば異業種のイベントにおいて自動車業界のアピールが高まっている理由でもあり、多様なプレイヤーがそれぞれの思惑をもって提携を進めるために、さまざまなフラグメンテーションを生み出していると筆者は推察している。

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