不景気でも誰も解雇せず、皆で学び続け、自社製品を生む金型工場zenmono通信(2/3 ページ)

» 2017年03月23日 14時00分 公開
[zenmono/MONOist]

「何を作るのか」という生みの苦しみ

enmono 都産技研の講座を1回受けて、それからzenschool(当時は「マイクロモノづくり経営革新講座」)に来ていただいたと思うんですけども、何か違いはありましたか?

坂本 「何を作るのか」というテーマを決める点はどちらの講座も一緒です。都産技研では1日の生活の中で「何かテーマがないか」という風に考えました。ただ、なかなかうまく出てこないんです。その時は若い社員さんと3人でやっていて、最後は「自分のやりたいもの、自分が好きなものから発想したらいいんじゃない?」という話になりました。音楽好きな社員から出た「キーボードに立てる小さな楽譜立てがほしい」という話から、「いや、今はだんだん電子化して、皆、iPadとかそういうのに変わってきてる」「じゃあiPadのスタンド作ろうか」という話になって、それはグラスファイバーで作って、立てられたり手に持ったり……。一応、それで特許の出願もしたんだけど。最終的には審査請求は出さなかったんです。そんな形のものを作って、成果発表などもやりました。

坂本 そしてenmonoさんの講座では今度は1人だったので、自分の本当にやりたいもの好きなものっていうと、やっぱりなかなか出てこないんですよね。

enmono そこでかなり苦しんでましたよね。

坂本 苦しみますよね。そこがうまく突破できると作る方はなんとかなるんですけどね。

enmono そこで悩んでいる時に、発明家さんとの出会いがあったと。

坂本 小野実さんという方です。ウチのWebページをご覧になって「ピンと来たって」とおっしゃっていました。「自分の所有する特許で商品を作りたい」と電話をかけてきたんです、「ここだったら何とかしてくれるんじゃないかと感じた」って。

enmono 今まで発明家の方からそういう連絡が来たことはあったんですか?

坂本 個人の方で「こういうの作りたいんだけど試作やってくれませんか」ということならありました。けど、「こういうアイデアがあるんだけど、これを商品化したい」というのは初めてでした。多分それは2011年の転換がなければ、作るお手伝いはするけど、それはあくまで「試作をやらせてもらう」という形にとどまっていたんじゃないかと思います。

enmono それまでにいろいろと勉強されていたことが、「じゃあ、一緒にやりましょう」という原動力になったんでしょうか。

坂本 そうですね。やっぱり、“のどから手が出るほど”テーマを欲していたので。町を歩いていても、「何かよいテーマはないか」って求めていましたから。

3年をかけざるを得なかった状況、3年かけたからこそ得られた価値

enmono 3年間の開発期間で紆余曲折はありましたか? できれば、もっと早く商品化したかったと思うんですけど。

坂本 そうですね。本当は1年間でやるつもりだったんですよね。ところがそんな簡単にはいかなかったんです。なぜかというと、1つは本業というか、既存の仕事で当面の売り上げを確保しなければいけないということ。商品開発をやるには金型部門が必要で、開発の人も専任にしたとはいえ、既存の金型の作業が忙しくなればそちらに応援に入ってもらわなければなりません。

坂本 2014年、新連携という補助金(「新連携支援」中小企業庁による経営支援)の決定をいただいて、ファイルのアイデア(ヌーケ)を製品化するという計画を立てました。1年間の事業で期限までに完成まで持って行かないと補助金も入らないので、期限を守るという意識が強くなります。

enmono それを本業の合間に挟むということですよね。

坂本 それをやってると、やっぱり進まないんだよね……。こんだけのボリュームのものなので、金型だって1mの金型を2台、後は500mmくらいの金型と300mmくらいの金型かな。計4台作っています。普通に売り型として考えれば1000万円以上かかっちゃうみたいな、そういう金型を作るわけだから。本業の売り上げが若干落ちるのも覚悟してやらないといけないので、資金が非常にきつくなります。補助金と言ったって全部先にくれるわけじゃなく、実際に使っている金額の半分もありません。

enmono 補助金は後から?

坂本 そうです、後払いですね。

enmono キャッシュフローが厳しくなりますね。まだ回収してないということですよね。

坂本 全然、全然。

enmono じゃあこれからがっつり回収しないと。

坂本 もう「待ったなし」という感じですよ。

enmono デザイン面についても伺いたいと思います。かっこいいロゴですが、どなたがデザインされたんですか?

坂本 enmonoさんの講座が縁で知り合った、プロダクトデザイナーの林田浩一さんにお願いをしました。産技研の方で知り合ったデザイナーさんとかいろいろ知り合いがあったんだけど、林田さんが講座の後に、ちょこちょこ連絡くださって「どうなってる?」と声かけてくださったのが一番大きかったのかな。「じゃあ、お仕事としてやっていただけないか」という相談をしました。

enmono 製品の部分のデザインもですか?

坂本 そうです。特にここの持ち手の部分、ですよね。これは林田さんがデザインしてくださいました。それまでは、もっとフラットで、持ちづらいし、金属のプレスの打ち抜いた端面が見えてるみたいな感じでした。

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