特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

GEヘルスケアの日野工場、「今ある設備を生かす」スマート化に取り組むスマートファクトリー

GEヘルスケア・ジャパンは、GEグループのスマート工場「Brilliant Factory」のショーケースサイトに指定されている日野工場の取り組みを紹介。30年以上の歴史を持つ同工場のスマート化は、「今ある設備や資産を生かす」ことが指針となっている。

» 2017年04月10日 13時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 GEヘルスケア・ジャパンは2016年4月7日、東京都内で成長戦略発表会を開催。GEグループのスマート工場「Brilliant Factory」のショーケースサイトに指定されている日野工場(東京都日野市)における取り組みを紹介した。

 GEは、デジタル時代の生産性向上を可能にするBrilliant Factoryを、2025年をめどに同社グループの450の工場へ適用していく方針を示している。これら450の工場に先行して取り組みを進めていくのが、7つのショーケースサイトだ。日本から選ばれたのは日野工場だけであり、またGEヘルスケアでも日野工場が唯一の事例となっている。

「Brilliant Factory」の目標/定義 「Brilliant Factory」の目標/定義(クリックで拡大) 出典:GEヘルスケア・ジャパン
GEヘルスケア・ジャパンの田村咲耶氏 GEヘルスケア・ジャパンの田村咲耶氏。手に持っているのは、人員の動態分析に用いたビーコン

 GEヘルスケア・ジャパン 製造本部 Brilliant Factory プロジェクト長を務める田村咲耶氏は「スマート工場というと、ロボットやAI(人工知能)といった最新の装置や技術を導入するイメージが強いかもしれない。しかし、それより前にやるべきこととして『無駄のない生産ができているか』『標準化を進めて異常と正常を判別できるようになっているか』といった、地道な取り組みが求められる。その上でデジタルを生かすのが日野工場でのアプローチになる」と語る。

 Brilliant Factoryには、生産における無駄のなさを示す「リーンマチュリティ(成熟度)」とデジタル化の浸透度を示す「デジタルマチュリティ」という2つの評価軸がある。450の工場は、両軸それぞれを5点満点として採点されている。Brilliant Factoryの取り組みを始める前の2016年初の段階において、日野工場はリーンマチュリティが4点とかなり高い一方で、デジタルマチュリティは1.7点と低かった。「この約1年間でさまざまな取り組みを進めたおかげで、リーンマチュリティが4.2点、デジタルマチュリティも4点になった」(田村氏)という。

7つのショーケースサイトの1つに選ばれた日野工場の概要 「Brilliant Factory」の目標/定義(左)と7つのショーケースサイトの1つに選ばれた日野工場の概要(右)(クリックで拡大) 出典:GEヘルスケア・ジャパン

「リードタイムや在庫回転率もしっかり見ていく」

 評価点数を大幅に高めた日野工場だが、実際にどのような取り組みを行ったのだろうか。田村氏は「日野工場は30年以上の歴史を持つ。これは、10年、20年選手の設備が多数あることを意味している。他の6つのショーケースサイトは新しい工場なので、最新設備やロボットを導入する余地があるかもしれない。しかし日野工場では、現行設備にセンサーを付けて情報を集めるなどして、今ある設備や資産を生かしながら最適化と生産性向上を目指している。『今ある設備を生かす』はこれからの社会のキーワードにもなると考えている」と強調する。

 取り組み事例の1つとなるのが、村田製作所と共同で実施したIDカードに付けたビーコンによる人員の動態分析だ。例えば、日野工場のある倉庫を対象に、人員の位置情報をビーコンで取得しヒートマップで見える化したところ、本来は導線が入り口に集中するべきところを、ごみ箱が置いてある倉庫の中央に集中しているという問題が分かった。「今まで難しかった、人とプロセスのリアルタイムな現場状況把握が可能になり、最適なレイアウトを考えやすくなった」(田村氏)という。

ビーコンによる人員の動態分析の事例 ビーコンによる人員の動態分析の事例(クリックで拡大) 出典:GEヘルスケア・ジャパン

 Brilliant Factoryでは、スマート工場内のセンサー情報を統合して見える化や分析を行うためにGEの産業用IoTプラットフォーム「PREDIX」を用いている。このPREDIXの活用法としては、見える化や分析だけでなく、日野工場やヘルスケア分野といった特定分野に求められるアプリケーションの開発もあるという。田村氏は「現在、7つのアプリケーションを開発/運用しており、これらのうち4つは他の工場にも展開している」と述べる。一例として挙げた「eAndon」は、生産ラインにトラブルが発生したとき、作業員にアラートを送るアプリケーションだ。eAndonの情報はPREDIXに統合されており、各国の工場で発生している異常件数の情報を一望できるという。

「PREDIX」の導入イメージ 「PREDIX」の導入イメージ(クリックで拡大) 出典:GEヘルスケア・ジャパン

 田村氏は今後の目標について「Brilliant Factory全体の中長期的な目標としては、2025年までに確固としたモデルを作り上げること。短期的には、2つ評価軸で4点×4点の工場を全体の8割以上にすることになる。日野工場としては、2つ評価軸以外に、生産効率向上の指標として、リードタイムや在庫回転率もしっかり見ていく」と説明する。

「Brilliant Factory」の知見を病院向けサービスに生かす

GEヘルスケア・ジャパンの多田荘一郎氏 GEヘルスケア・ジャパンの多田荘一郎氏

 GEヘルスケア・ジャパン社長の多田荘一郎氏は「医療機器業界は、販売台数を伸ばしていく事業モデルから、データを活用してサービスの質を高めていく事業モデルに移り変わりつつある。IoTをはじめとするデータ活用と言う観点で、Brilliant Factoryでの知見を生かし、病院向けサービスの『Brilliant Hospital』などに生かしていきたい」と述べている。

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