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» 2017年05月08日 06時00分 公開

上海モーターショー 2017 レポート:「成熟」と「政府による制御」が混在する中国の自動車市場、新たなる船出 (2/3)

[桃田健史,MONOist]

2030年までを見据えた、政府による技術進化の「制御」

BYDとダイムラーの合弁事業、DENZAのEV BYDとダイムラーの合弁事業、DENZAのEV(クリックして拡大)

 次に、「Controlled(制御)」について説明したい。筆者がここで言う制御とは、中国政府が次世代車の研究開発について中国自動車産業の全体を制御している、という意味である。

 各メーカーのブースには、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の展示が目立った。しかし、今回のショーで華々しくデビューしたEVやPHEVは数少ない。展示車の多くは、数年前から中国各地のモーターショーに出展されたモデルや、その派生車種だ。

 EVでは中国市場をリードする立場だったBYDのブースには、タクシー向けに販売していた「e6」も、その後継モデルの姿もなかった。また、BYDとダイムラーとの合弁事業であるDENZAのブースも以前からの展示内容を継承しただけで、新しい商品の提案は全くなかった。

 このように電動車に関して新しい動きが少ない理由は、中国政府が2016年10月に発表した2030年までの次世代自動車の開発に関する施策の影響によるものだ。

 その流れの初期段階として、NEV(New Energy Vehicle:新エネルギー車)が法整備され、米国のZEV法のように政府がメーカー各社に電動車の販売台数を要求する。このNEV法というハードルを越えるため、各メーカーは基礎研究を対象とした電動車の将来構想ではなく、足元の”現実解”として早期に量産可能なEVやPHEVの生産を重視しているのだ。

中国地場メーカーの水冷式の電池パック(左)。中国地場メーカーはNEV法を受けてEVやPHEVを量産(右)(クリックして拡大)

 日系メーカーでは今回、ホンダがSUV「CR-V」の2モーター式ハイブリッド車を公開すると同時に、2018年にEVを中国に導入することを明らかにした。これもNEV法への対応である。

 そもそもNEV法は、中国の国営研究機関である中国自動車技術研究センター(CATRC)とカリフォルニア大学デービス校の共同研究で造り上げたものだ。カリフォルニア大学デービス校は、ZEV法を策定するカリフォルニア州環境局から電動車などの基礎研究を受託しているため、NEV法はZEV法との類似性が高いと予測できる。

 NEV法の施行に伴い、中国の投資家の間でEVベンチャーに対する投資意欲が高まっている。その一端としてNextEVのNIOブランドなどが派手な展示を行っていた。

NextEVが展開するNIOブランドのEV「EP9」 NextEVが展開するNIOブランドのEV「EP9」(クリックして拡大)

 NextEVは電気自動車フォーミュラカーの選手権「フォーミュラE」のトップチームスポンサーになることで知名度を上げている。技術力についても積極的にアピールしており、スーパーカー「EP9」を使ってニュルブルクリンクでEV最速となる7分5秒台を記録。2017年2月にはテキサス州のサーキットでドライバーレスでの走行実験を行い、完全自動運転車として世界最速となる時速256kmで走行した。

 今回のオート上海では、NextEVは量産型のSUV「es8」を公開。長安汽車で製造し、2019年に発売することを明らかにしたが、車両の技術詳細は未発表。量産の実現性についてはいまだに疑問が残る。それでも、既にシリコンバレーやドイツに数百人規模の従業員が抱え、研究開発やデザイン、そしてマーケティング活動を進めているという。

 このような高級EV市場では、米国の展示会「CES」に出展したファラデーフューチャーなど、投資マネーが先行するタイプのビジネスモデルでEVベンチャーの存在感が増している。

 こうした巨額の資金の流れが可能となるのは、中国NEV法と米ZEV法という類似性の高い規制があり、中国と米国の2大市場の富裕層を狙ったビジネスチャンスが大きいと、投資筋が考えているからに違いない。

 この分野については中国政府の立場は不明だが、これまでの経緯を見る限り「もうかる領域でのデファクトを急ぎ、早期にブランドを構築する」との思惑があるのではないだろうか。

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