特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

インダストリー4.0で深まる日独連携、残された“3つの課題”の現在地(前編)ハノーバーメッセ2017(2/2 ページ)

» 2017年05月17日 14時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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中小製造業にとってのIoTワンストップ相談所

 中小製造業に向けた取り組みでは、デジタルマッピングの他にも、対面で相談できる環境を用意する動きも具体化している。ドイツでは、中小製造業のIoT活用を支援するための施設「インダストリー4.0コンピテンスセンター」を各地に用意している。これは、施設内の設備などを通じて自社工場などでスマートファクトリーを実現する際にどういうことが実現できて、どういうメリットが得られるのかということを検証できるようにするものである。

 シェレメト氏は「インダストリー4.0コンピテンスセンターは中小製造業に対するワンストップショップとしての位置付けだ。広いデジタル化の動きの中で、中小製造業にとっては『そもそもインダストリー4.0が何なのか分からない』や『どのような規格が必要なのか』『どこで何をすれば良いのか』などさまざまな粒度の疑問や課題が生まれている。そういうさまざまな粒度の課題に対し、相談を一元的に受けられる施設をできるかぎり中小製造業に近いところで提供する必要がある」とコンピテンスセンターの位置付けについて述べている。

photo 経済産業省 製造産業局 審議官(製造産業局担当)の佐藤文一氏

 一方、日本もドイツの「インダストリー4.0コンピテンスセンター」を参考とし、2016年から中小製造業のIoT活用を支援する「スマートものづくり応援隊」を開始。2016年度は、さいたま市産業創造財団(さいたま市)、大阪商工会議所(大阪市)、山形大学(山形市)、北九州商工会議所(福岡県北九州市)、ソフトピアジャパン(岐阜県大垣市)の5拠点で展開してきたが、2017年度は21拠点に拡大する方針が発表されている※)

※)関連記事:スマートものづくり応援隊が拡大、地方中小製造業のIoT活用を支援

 佐藤氏は「日本もドイツと同じで中小企業の近くに相談する仕組み必要だと考えている。スマートものづくり応援隊の動きは政府だけでなく地方自治体でも支援の動きが進んでいる。2017年は21の施設で活動を行い、ユースケースの創出やITツールの提供、トレーニング、コンサルティングなどの活動を行う」と述べている。

 こうした支援策は基本的には先行するドイツの取り組みを参考にしたものが多いが、日本独自の動きとしては「スマートものづくり応援ツール」を挙げる。「ITツールは中小製造業にとっては高額であったり、負担が大きかったりする場合が多いが、中小製造業の規模やニーズにあったITツールをまとめたのが『スマートものづくり応援ツール※)』である。こうした動きは日本独自のもの。さらに拡大していきたい」と佐藤氏は語っている。

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サイバーセキュリティと標準化の問題

 日本とドイツの連携において、共通の課題とされるものは、中小製造業のIoT化の他、サイバーセキュリティと標準化の問題がある。これらは2016年から継続的に共通課題とされてきており、連携への取り組みが進み始めている。

 シェレメト氏は「サイバーセキュリティについては、ドイツではプラットフォームインダストリー4.0においてデータセキュリティのワーキンググループを設置。生み出されるデータの安全性について議論を進めている」と述べる。一方で佐藤氏は「サイバーセキュリティの問題は企業各社も大事だが、全体の枠組みをどう考えるのかという点が重要である。国際的な枠組みを決めていくことが重要で、その点でドイツと一緒に考えていけるというのは大きい」と述べている。

 重要なポイントとして「教育と規制」を挙げており、サイバーセキュリティ人材育成などに協力して取り組む方針を示した。

 標準化については、IECやISOなど国際標準化の舞台において、両国企業によるさまざまな標準化への取り組みが進んでいる。既に、スマート工場の全体モデルとしては、プラットフォームインダストリー4.0による「Reference Architecture Model Industrie 4.0(RAMI4.0)」や、インダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)による「IIC Reference Architecture(IIRA)」のすり合わせなどが進んでいるが、日本からもIVIの「IVRA」が提出されており、各国の思い描く工場や製造業の姿をすり合わせている状況だ※)

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 シェレメト氏は「部分的な標準では駄目だと考えている。ビジネス全体で標準化を進めていく必要がある。しかし、利用できない標準では意味がないので、個別に整合をとっていくことが重要である。ユースケースをベースに他の企業や国がどういう正解例を持っているのかというのを見定めて、最適な形を探っていく」と考えを述べた。

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