トヨタが新時代のモビリティに向け約38億円を投資、MITなど北米6大学と研究自動運転技術

トヨタ自動車は、北米の先進安全技術研究センター(CSRC)における2017〜2021年の研究計画「CSRCネクスト」の内容を発表した。5年間で3500万米ドル(約38億円)を投資し、新時代のモビリティに安全に移行するための研究を進める。

» 2017年06月02日 06時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 トヨタ自動車は2017年5月31日(現地時間)、北米の先進安全技術研究センター(CSRC:Collaborative Safety Research Center)における2017〜2021年の研究計画「CSRCネクスト」の内容を発表した。5年間で3500万米ドル(約38億円)を投資し、新時代のモビリティに安全に移行するための研究を進める。

 CSRCネクストは4つの方向性で研究を進めていく。

  1. さまざまな衝突形態に対応するための、センサーの高度化による予防安全/衝突安全技術の統合
  2. 自動運転技術など、先進技術を搭載したクルマを、ドライバーのみならず、交通社会全体を見据えてより使いやすく、より人間の感覚に合ったクルマとするための開発モデルづくり
  3. ドライバーの心理状態や健康状態を具体的な数値で把握することで、より良いモビリティにつなげていく研究
  4. ビッグデータと安全の分析手法を活用して、より現実の交通環境に即した運転データを研究できるアルゴリズムやツールの開発

 CSRCネクストの立ち上げ時点の研究プロジェクトは8つで、6つの大学とパートナーシップを組んでいる。その中の1つには、マサチューセッツ工科大学(MIT)エイジラボ(Age Lab)と実施する、自動運転車向けの新システムに関する研究がある。周囲の対象物を確認し、交通流の中で他の交通とのやりとりを理解するという、画期的なシステムに関わるものだ。バージニア工科大学とは、予防安全/衝突安全の双方を含む総合的な安全システム(ISS)をもってしても残り得る将来の安全上の問題について推測する研究を行う。

 CSRCは、北米における自動運転研究開発の一部も担っている。TRI(Toyota Research Institute)やTC(Toyota Connected)などとも協力しつつ、自動運転技術開発のスピードを加速させるとともに、複雑さを増す新時代のモビリティと将来の社会のトレンドについても調査する。

設立から5年間で23の大学と44の研究プロジェクトを推進

 CSRCは、交通事故死傷者の低減を目指し、北米の大学や病院、研究機関などとの共同研究を目的として2011年に設立された。2016年まで5年間の取り組みで、23の大学とともに44の研究プロジェクトを立ち上げ/完了し、200以上の論文を発行している。さまざまな車両安全関連の会議で研究プロジェクトの発表を行ってきた。

CSRCで開発された、人体のレーダー反射特性を考慮した歩行者回避支援PCS用のテストダミー CSRCで開発された、人体のレーダー反射特性を考慮した歩行者回避支援PCS用のテストダミー(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 CSRCの研究はトヨタ車の安全性向上にも貢献してきた。例えば、コンピュータによる衝突シミュレーションの能力向上、高度運転支援システムの作動をより的確なものにする研究といった例がある。さらにトヨタ自動車のみならず、SAE(米国自動車技術会)のような、国際機関における安全基準づくりにも貢献した実績がある。自動車業界全体に対しても、車両安全におけるヒューマンファクターの研究、予防/衝突双方の安全システムの効果の研究に加え、安全運転のデータやデータ解析のための新ツールの開発などで安全性向上に貢献してきた。

 救急医療の推進もCSRCの研究成果の1つ。ミシガン大学救急医学部とのプロジェクトでは、運転中の心筋梗塞/心筋虚血を含む、重篤な心臓病の発症を、不要なノイズに紛らわされず確実に検知、もしくは予測する技術を開発した。CSRCネクストの一部として、院内、もしくは運転中に心臓病を発症した患者から収集した脳波データを機械学習にかけ、運転中の心臓病の発症を検知/予期するモデルを作る研究を実施している。

 ネブラスカ大学メディカルセンターとともに行う研究では、インスリン注射を行う糖尿病患者のドライバーをモニターし、運転中の安全のために、血糖値を常時モニターするシステムの実証研究を行った。この中で、実際の運転行動を評価し、どんな血糖値のレベルやパターンのコントロールが必要かを決める手法を研究してきた。

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