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» 2017年06月26日 06時00分 公開

クルマから見るデザインの真価(13):「NDロードスター」と「124スパイダー」から見えてきた、愛車になるための“余白” (2/6)

[林田浩一/林田浩一事務所,MONOist]

乗る人も造形の一部

 加えて、人(ドライバー)もロードスターのカタチに含まれている様に意図しているところも特徴だ。ボディーサイドを流れるプレスラインは、フロントフェンダーから始まり、ドアを経て最後はドライバーとパッセンジャーの2人を包み込むようにキャビンの後ろへと合流していく。これによりクルマを眺める視線は、人へも誘導される。

 インテリアへ目をやると、ドアトリムのアッパーパネルやインストゥルメントパネルの一部にボディーカラーを取り入れている、これは単なる差し色でワンポイントの華を添えるためのものではない。幌を下ろして運転していると前方に見えるフロントフェンダーの膨らみがフロントウィンドウを突き抜け、目の端で室内のドアトリムへとつながっている様子が見える。さらに風が流れ込んでくるのを感じると、衣服のようにクルマのボディーを身に纏って前に進んでいるかのような雰囲気もある。乗っている人もロードスターの構成要素なのだ。

フロントフェンダーの膨らみがフロントウィンドウを突き抜け、目の端で室内のドアトリムへとつながる(左)。プレスラインはキャビンを包むようにして後方へ合流していく(右)(クリックして拡大)

 人を中心に置き、4つのタイヤの存在感で見せているNDロードスターは、視覚的にも軽快感を表現するとともに、これまでのロードスター以上にスポーツカーらしいカタチの印象が強い。

 運転席からの視点でも、フロントウィンドウ越しにフロントフェンダーの盛り上がりが見え、後方確認のためドアミラーをのぞくと、そこにはリアフェンダーの盛り上がりが映り込み、運転中は常にタイヤの存在感やクルマの動きを意識することになる。ロードスターは、ステアリングを握るとアドレナリンが吹き出す類いのスポーツカーではないけれど、運転しているとなんとも楽しくなってくるクルマだ。

124スパイダーが拡張するアバルトブランド

 NDロードスターと歴代ロードスターのもう1つの違いは、他社ブランドの兄弟車ができたことだ。マツダとフィアットの協業により、マツダの工場で作られるイタリア車、アバルト124スパイダーが生まれた。

 海外市場では「フィアット124スパイダー」とその高性能版「アバルト124スパイダー」として販売されるが、日本市場はアバルト版のみの導入である。これは、ルノーが「ルノー・スポール」「カングー」という、キャラクターがはっきりしたクルマからブランド認知の基礎を作って行く過程と似ている。

 アバルトは、元は主にフィアットのチューニングで名をはせた独立チューナーだ。ルノーに対するアルピーヌと同様、今やフィアットが使用する商標に過ぎなくなっているが、もしアバルトがチューナーのまま残っていたらアバルト124スパイダーは「アバルト製ロードスター」として今と違った姿形になっていたかもしれない。

 ちょっと話が横にそれたが、アバルト124スパイダーは、アバルトブランドの拡張という位置付けを強く感じる。現状のアバルトのラインアップは、「フィアット500」の派生である「595」や「695」しかなかった。どちらも、1960年代のフィアット500をベースとした、アバルト製のチューニングカーとして存在していた歴史あるモデルだ。今回の124スパイダーも、1970年代のアバルト124スパイダーのオマージュと位置付けられている。

新旧124スパイダー。ロードスターの骨格上でどのようにオマージュを実現したか 新旧124スパイダー。ロードスターの骨格上でどのようにオマージュを実現したか(クリックして拡大) 出典:FIAT

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