デジタルツインを実現するCAEの真価

マルチフィジックスとマルチスケールの先にあるものSAoE 2017レポート(1/3 ページ)

ダッソー・システムズのSIMULIAブランドの責任者らが、米で3ブランドを包括したイベントを行った背景や、バーチャル都市およびバーチャル心臓プロジェクトの詳細、大規模解析の開発状況やこれからの市場展開について語った。

» 2017年07月11日 13時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 ダッソー・システムズ(以下、ダッソー)は2017年5月16〜18日に米イリノイ州シカゴでユーザーイベント「Science in the Age of Experience(SAoE) 2017」を開催した。同社にとってのシミュレーションの位置付けや将来像、2017年のイベントのコンセプトなどについて、ダッソー・システムズ SIMULIA事業部 CEOのスコット・バーキー氏、同じくSIMULIA Growth バイスプレジデントのスマンス・クマー氏に話を聞いた。

ダッソー・システムズ SIMULIA事業部 CEOのスコット・バーキー氏(左)とSIMULIA Growth バイスプレジデントのスマンス・クマー氏

さまざまなドメインが重なっていく世界になる

―― 本年のイベントは2016年に続き「Science in the Age of Experience」という名称で、また2016年までSIMULIA単独開催だったのがBIOVIAおよびGEOVIAブランドとの合同実施となった。その意図はどのようなものか。

クマー氏 SIMULIA、BIOVIA、GEOIBIAの3つを当社ではサイエンティフィックブランドと呼んでいる。これらを同時に使ったときのメリットを強調したかった。将来はさまざまな領域が重なって扱われる世界になると考えられるからだ。そこでイベントの初日にはカスタマーおよびダッソーによるプレゼンを通じて、3領域を連携させることによって生まれる価値を強調した。一方ユーザーは個別の分野におけるシミュレーションの機能や技術に関する深い話も聞きたいと考えている。そこで3つそれぞれの全体レクチャーを行うとともに、プロダクトアップデートを9本、カスタマーの事例を70本発表してもらった。

―― 今後シミュレーションで注目すべきテーマは何か。

クマー氏 2つのテーマに注目している。1つは流体や電磁場など複数の分野を複合的に最適化していくコネクテッドフィジックス、さらにそれをミクロからマクロまでカバーするマルチスケールだ。もう1つは、エンジニアリングや設計のワークフローの中にシミュレーションがもっと使われるようになることだ。つまりシミュレーションの民主化が起こる。

大量のデータと野望を持つシンガポール

 さまざまなドメインが重なるという取り組みの1つが、シンガポールでのプロジェクト「バーチャル・シンガポール」でも活用されている「3DEXPERIENCity」である。3DエクスペリエンスプラットフォームでGEOVIAをベースにSIMULIA、BIOVIAの全てを使用しているという。日照や事故時の避難計画、ビル風といったことをシミュレーションやIoTを駆使して検討できるプラットフォームとなる。

―― シンガポールの都市全体をシミュレーションしようというプロジェクトはどのような背景を元にスタートしたのか。

クマー氏 私は2年間シンガポールに住んでいたことがある。だからシンガポールの課題はよく分かっているつもりだ。シンガポールは、土地は狭いが、もっと大きくなりたいという野望を持った国だ。人口密度が高いため、サステナブルな開発に対する意識が高い。コンクリートと緑のバランスを取るといったことは重要な課題だ。また産業や交通機関が生み出す環境汚染の抑制への意識も高い。一方シンガポールはアジアのビジネスハブとして機能したいと考えている。課題がある一方でポテンシャルも持つ国だ。

 プロジェクトにおいて私たちが貢献した中で分かりやすい例は、ビル風のシミュレーションだ。シンガポールはビルがとても多くビル風も発生する。ささいなことだと思うかもしれないが、シンガポールは熱帯で蒸し暑い。高層階になるにつれてより高温多湿を感じる。シミュレーションによって、ビルは何階建てがよいかや、ビル間のスペース、公園の確保について検討できる。

 なお、このプロジェクトは適切な各当局に参加してもらわなければ難しい。水道、電力、下水道などの関連する団体を巻き込んでいく必要がある。シンガポールはもともとデジタルデータの提出義務があるため、データが集まりやすい面もある。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.