「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

ドイツの自動車大手はスタートアップとどのように付き合っているかドイツのコネクテッドカー開発事情(1/3 ページ)

これまでの2回では、単身でドイツに渡ってベルリンのスタートアップで働き始めた経緯や、自動車向けのアプリ開発をどのように支援していたかをご紹介しました。今回は、ベルリンでの生活で見えてきた、スタートアップと自動車業界の関わりについてお話していきます。

» 2017年08月28日 06時00分 公開
[別府多久哉MONOist]

自治体も有望視するカーシェアリング

乗り捨てられたカーシェアリングの車両 乗り捨てられたカーシェアリングの車両(クリックして拡大)

 ベルリンでは、バイクも含めたカーシェアリングが公共交通の1つとして地位を固めつつあります。多くのサービスが路上駐車帯に乗り捨てることが可能で、有料の路上駐車帯にも無料で駐車できるなど、便利なサービスとなっています。乗り捨てや無料での駐車には、自治体の協力があります。ベルリンを始めとするドイツの自治体は環境問題や都市交通の課題解決の手段としてカーシェアリングを有望視しているといえます。

 ベルリンの若者には、「カーシェアリングを利用したいから自動車の運転免許を取った」という人もいます。自動車を所有するという選択肢しかなければ、彼ら彼女らは免許すら取得しなかったかもしれません。

 ベルリンで急成長しているのは「mytaxi」と「DriveNow」という2つのサービスです。「mytaxi」は2010年にドイツでスタートしたタクシーの配車サービスです。ドイツ国内では40都市に対応しており、欧州全域はもちろん、米国やオーストラリアでもサービスを展開しています。全世界でユーザー数は1000万人を超え、登録しているタクシードライバーも10万人を超えているといわれています。2016年には、スペインやイギリスを中心に展開している配車サービス「Hailo」とも提携し、国際的なタクシー業界を再構築するほどになっています。

mytaxiの使用イメージ mytaxiの使用イメージ(クリックして拡大) 出典:mytaxi

 「DriveNow」はカーシェアリングサービスで、固定のステーションが無く、市内の路上駐車帯であればどこにでも乗り捨てることが可能です。さらには会費が無料で従量課金のみとなっています。また、有料の駐車帯であっても自治体と連携し、ユーザーがパーキングチケットを買わなくても駐車できることもあり、多くの市民が利用しています。

ダイムラー、BMW、ボッシュが普及の旗振り役

バイクのシェアリングサービスを利用するハイモビリティのCTO バイクのシェアリングサービスを利用するハイモビリティのCTO(クリックして拡大)

 この2つのサービスを手掛けているのはいずれも自動車メーカーです。「mytaxi」は2014年にDaimler(ダイムラー)傘下のモーベル社が買収しました。「DriveNow」はBMWが2011年から運営しています。

 ダイムラーは別のカーシェアリングサービス「car2go」も8カ国以上に展開するなど、積極的です。car2goは、Mercedes-Benz(メルセデスベンツ)の2020年代のブランド戦略を示す「CASE」戦略の柱の1つです。CASEは「Connectivity」「Autonomous driving」「Sharing」「Electrification」の頭文字です。プレミアムブランドとしてだけではなく、次世代モビリティのプラットフォーマーへの変革も模索する姿勢が伺えます。

 大手サプライヤーのRobert Bosch(ボッシュ)が関与するバイクのシェアリングサービスもあります。このサービスはスマートフォンメーカーのHTC元幹部が台湾で2011年に設立したGogoroというスタートアップによって展開されています。同社は1億5000万米ドルを調達し、電動バイクと独自のバッテリーレンタル方式を開発しています。

 電動バイクのバッテリー残量が少なくなると、ユーザーは街中に設置されたステーションを訪れて充電済みのバッテリーと交換できます。電動バイクのバッテリーは2個で9kgと軽量であり、しかも簡単に取り出せるため、交換作業に複雑で高価な機器を必要としません。ユーザーは自分でバイクのバッテリーを取り外してステーションに収めて、代わりに充電済みバッテリーを取り付けて利用します。

 発売されてから1年ほどで台湾では利用者は1万人を超え、ステーションも既に100カ所を超えるようです。Gogoroがドイツに進出したのは2016年です。ボッシュ傘下のCOUPと提携し、ベルリンでのレンタルサービスを開始しました。ベルリンはGogoroにとって欧州初の拠点でもあります。

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