「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

ドイツの自動車大手はスタートアップとどのように付き合っているかドイツのコネクテッドカー開発事情(2/3 ページ)

» 2017年08月28日 06時00分 公開
[別府多久哉MONOist]

欧州全体に広がる「MaaS」

 自動車を所有するのではなく、カーシェアリングなどサービスとして利用する概念は「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ばれています。欧州では、2015年に「The European Mobility-as-a-Service Alliance(欧州MaaSアライアンス)」が発足しました。フィンランド運輸通信省、ロンドン交通局、ゼロックス、国際自動車連盟など20もの産学官の組織から構成されています。

 MaaSの中心となるコンセプトは、人とモノの両方を含めたユーザーを、交通サービスの中心とし、それぞれのユーザーのニーズに応じた新たな交通ソリューションを提供することです。このアライアンスでは、参画組織を通じてMaaSの概念を欧州全体にアプローチする取り組みを実施していきます。

 フィンランドでも、MaaSを代表する先進的なサービスが展開されています。「Whim」というサービスで、目的地を検索するだけで公共交通機関とライドシェア、タクシー、レンタカー、レンタサイクルなどあらゆる交通手段の組み合わせから最適なものを選ぶことができます。アプリで予約や決済が完結する他、運賃を月額制で支払うこともできるのも特徴です。日本からはトヨタファイナンシャルサービス、あいおいニッセイ同和損害保険、そしてデンソーが出資しています。

 MaaSの概念は大きな変化であり、自動車業界にとって脅威です。MaaSの一例であるカーシェアリングは、普及・充実すればするほど消費者は自動車を買わなくなります。単純に考えれば、自動車メーカーはカーシェアリングには反対する方が合理的ですが、ドイツの自動車メーカーは積極的にカーシェアリングを推進しています。ドイツの自動車業界は、カーシェアリングを敵に回すのではなく、未来の自動車社会の味方にしたと考えることができるでしょう。

BMWはスタートアップの中からサプライヤー候補を発掘

BMWの「Startup Garage」 BMWの「Startup Garage」(クリックして拡大)

 先述したカーシェアリングは、自動車業界だけで事業化したものではなく、スタートアップの取り組みも核となっています。カーシェアリングに限らず、ドイツの自動車業界は社内外のリソースを組み合わせて新たな技術やサービスを開発するオープンイノベーションに前向きです。

 自動車メーカーにとって、堅牢(けんろう)さが求められる自動車に大きな変革を取り入れるのは非常にリスクが高いことです。そのため、積極的にリスクをとれるスタートアップと比較すると、新しいサービスに取り組むスピード感は圧倒的に差があります。オープンイノベーションでスタートアップのアイデアを取り入れようとする動きは至って合理的だといえます。

 私が働いていたHIGH MOBILITY(以下、ハイモビリティ)はBMWのオープンイノベーションプログラム「BMW Startup Garage」に参加していました。このプログラムは、スタートアップと全く新しいイノベーションを生み出すことは目的ではありません。サプライヤーとして、BMWの量産モデルを高機能化し付加価値を向上する製品やサービスを提供できるスタートアップを探す取り組みです。

Startup Garageのオフィスの様子 Startup Garageのオフィスの様子(クリックして拡大)

 選出されると数カ月間に及ぶ特別プログラムに取り組みます。プログラムの中核となるのは、BMWグループで活用できる機能的なプロトタイプの開発です。さらに、BMWグループ各社とのネットワーク構築や、事業計画策定の支援も受けることができます。実際にBMWの設備にアクセスできる点は非常に魅力的で、独立系のインキュベーターやアクセラレーターとは大きく異なっています。

 BMWは他にも2つのオープンイノベーションの取り組みを実施しています。1つ目はBMWグループのベンチャーキャピタルとして2011年にニューヨークで設立された「BMW i Ventures」です。BMWグループ全体のイノベーションのけん引役として位置付けられており、ライドシェアの「Scoop」や電気自動車の充電サービスを手掛ける「Chargepoint」など、レイトステージのスタートアップを対象に15件以上の出資を行っています。

 2つ目は傘下のMINIが運営しているアクセラレータープログラム「URBAN-X」です。URBAN-Xでは「Engineering the city as a service」というテーマを掲げおり、自動車という領域を超えて、自動車が活用される街全体を対象に新たなビジネスモデルの構築や、イノベーションの創出を共に模索できるアーリーステージのスタートアップの募集を行っています。

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