2018年度末までの大規模実証実験がスタート、SIPの自動走行システムも集大成へSIPシンポジウム 2017

内閣府がSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の成果などを発表するため開催した「SIPシンポジウム 2017」。残り1年半となった期間で何を進めていくのか。「自動走行システム」のプログラムディレクターである葛巻清吾氏が語った。

» 2017年10月13日 08時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
「自動走行システム」のプログラムディレクターである葛巻清吾氏

 内閣府がSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の成果などを発表するため開催した「SIPシンポジウム 2017」(2017年9月26日、ベルサール東京日本橋)。2014年度にスタートしたSIPの取り組みのうち、ほとんどのプログラムは2018年度で実施期間の最終年度を迎える。

 残り1年半となった期間で何を進めていくのか。「自動走行システム」のプログラムディレクターである葛巻清吾氏(トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー 先進技術統括部 常務理事)が語った。

1年半に及ぶ大規模実証実験を実施

 SIPは、プログラムディレクターの指揮の下、実用化という出口に向けて省庁の枠や企業同士の垣根を越えて技術革新を実現することが求められる。自動走行システムの集大成となるのは、2017年10月から2018年度末にかけて公道で実施する「大規模実証実験」だ。常磐自動車道と首都高速道路、東名高速道路、新東名高速道路の全長300kmの区間と、東京臨海地域の一般道で実施する。

大規模実証実験の実施概要と予定スケジュール(クリックして拡大) 出典:SIP

 「大規模」と銘打っているのは、多数の自動運転車を走らせるためではない。国内外の自動車メーカーやサプライヤー、ベンチャー企業、大学などが幅広く参加し、SIPの各施策が連携しながら、さまざまな実環境をカバーすることを示している。

 実証実験は、管理法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託先を決定し、2017年10月3日からスタートした。フォルクスワーゲングループジャパンも2017年10月3日、SIPが実施する大規模実証実験に参加すると発表した。実験に参加するのは、フォルクスワーゲングループの日本市場での技術開発や情報収集を担う「東京技術代表オフィス」だ。

重点5課題を実証実験で検討

 実証実験の期間中は重点5課題と位置付ける「ダイナミックマップ」「HMI(ヒューマンマシンインタフェース)」「情報セキュリティ」「歩行者事故低減」「次世代都市交通」に関する実証実験を随時行う。

 ダイナミックマップは自車の位置を推定するために必要となるもの。工事の予定情報や事故状況などをひもづけていく。SIPでは、ダイナミックマップのセンター機能の実現や事業化、国際標準化を目標としてきた。国際標準化に関しては、ISO/TC204 WG3に提案して承認を得た。「2年以内に標準化できそうだ」(葛巻氏)としている。

ダイナミックマップに関するこれまでの成果(左)。自動運転以外にも用途を広げていく(右)(クリックして拡大) 出典:SIP

 ダイナミックマップの事業化に向けては、2016年のSIPシンポジウムで企画会社「ダイナミックマップ基盤企画」の発足を発表、2017年6月には、主要株主から増資を受けて、新たに事業会社としてスタートを切った。2018年度内に全ての自動車専用道路のデータをつくる計画だ。

 「仕様は固まったが、更新や準動的データの収集の仕組みをどうするか。データ配信をどのようにやっていくか。こうした点を大規模実証実験で確認していく」(葛巻氏)。また、「Society 5.0」の実現に向けて、インフラの維持管理や防災減災、歩行者移動支援ナビなどへ地図で課題解決に貢献していく姿勢も示した。スマート農業での活用も見込んでいる。

大規模実証実験ではHMIの検証も進める(クリックして拡大) 出典:SIP

 大規模実証実験では、ドライバーモニタリングシステムを配布してドライバーの運転中の状態のデータ収集にも取り組む。自動運転の普及に向けて、ドライバーが自動運転から手動運転に切り替わる時にどのように受け渡すべきか、ドライバーの状態を踏まえて引き継げるかが課題となるためだ。葛巻氏は、この他にもクルマが持つ機能など事前に必要な知識をドライバーにどう示すか、自動運転車が他のドライバーにどのように意思表示すべきかという点を課題として挙げた。

お台場で自動運転バスが走る

 セキュリティに関してはコンポーネントレベル、システムレベルでの評価手法を検討してきた。署名検証方式で高速に検証する技術も確立。今後は車両レベルでの検証に取り組んでいく。「1社だけセキュリティに優れているのではなく、業界全体で底上げするには、ガイドライン化し、評価方法を構築していきたい」(葛巻氏)。

セキュリティは車両外部からも評価できるようにすることが今後の取り組みとなる(左)。歩行者事故低減に向けては、公道での誤作動のない歩車間通信を目指して取り組みを進めていく(右)(クリックして拡大) 出典:SIP

 歩行者事故低減では、歩行者の位置を正確に測定することが求められる。SIPでは歩行者の位置を推定する技術を開発し、従来技術ではビルの谷間などで誤差が20mまで広がるのを、誤差5mまでに抑え、精度を高めた。今後はこれを±3mまで精度を向上していく目標だ。歩行者の位置情報をクルマにどう伝えるかも開発テーマになっていくとしている。

次世代都市交通では自動運転バスをターゲットに制御や運行を検討していく(クリックして拡大) 出典:SIP

 次世代都市交通の取り組みでは、2018年度にお台場での実証実験を予定している。これまでSIPでは自動運転バスをバス停に付ける制御の開発した。この他にも、バスが時刻通りに到着するためバスの通行と信号を連携させるPTPS(パブリックトランスフォーメーションシステム)の高度化に取り組んでいる。バスの現在位置やダイナミックマップの情報を組み合わせて効率的にバスを配車するシステムも開発している。

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