公差を緩くすればコストダウンできるわけではない3D設計推進者の眼(27)(2/3 ページ)

» 2018年01月24日 13時00分 公開

組み立てと公差

 組み立てについてはどうでしょうか。部品精度のよしあしによって組み立て精度への影響を及ぼすような場合について考えてみます。

想定

  • 複数部品による組み立てを行う
  • 部品精度による組み立て精度への影響がある
  • 組み立て後の組み立て寸法検査がある

 ここでは、公差計算・公差解析がされていないという条件とします。

 公差計算・公差解析がされていないということは、組み立て後の製品の寸法公差というものが考慮されていないことを示しています。

 個々の部品の寸法公差が緩い場合、組み立て製品の所定の寸法値は、指定の公差値に収まらない可能性が大きくなります。この公差値に収めるためには、個々の部品の全品測定を行って、分類を行い、この分類によって組み立てるような努力をすることになるでしょう。

 寸法公差が厳しい場合は、このような全品寸法測定や分類を行う必要もなくなる可能性があり、組み立て作業時間が低減される可能性があります。

寸法公差と組み立て時間

 これらのように加工と組み立ての両方で比べた場合、寸法公差が厳しい場合と緩い場合には、一長一短があることが、お分かりいただけるのではないでしょうか。

 公差が厳しい場合、公差が緩い場合に対して加工費は上がる可能性があるものの、公差が緩い場合は、公差が厳しい場合に対して、組み立て工数(組み立て工賃)が上がる可能性があります。コストを考えた場合、相反する結果を生じる可能性があります。公差を緩めたからといって、必ずしも安くなるばかりではないかもしれないのです。

 このようなコストの議論は、デザインレビューにおいてされるものだと私は考えます。設計者の意図、部品調達部門、さらには部品加工の立場、組み立ての立場において、議論されればバランスの良いものになります。

 しかし、私の携わる産業機械分野において、開発設計=量産設計となるようなもの(一品もの)では、量産設計時の量産性を考慮したような議論を全ての部品に対して行うことは、時間的にも難しいです。

 私の経験の中でのデザインレビューといわれる装置外観を見ながら行う設計審査では、リピートや流用時における部品調達部門や組み立て作業者からの“前回の記憶に対しての公差の見直し要求”がある場合もありましたが、何かの原則的な理論に基づいて議論されるのではなく、「部品コストと調達納期がかかり過ぎた」とか「組み立てが大変だった」というような議論にとどまるものです。設計者に対して、代替え案のないクレームのような要求として提示されることが多く、その提示を受けた設計者も原理原則的な考えもなく対応するといった結果に至ることが、私自身も含めて多かったように思います。

 寸法公差のことについてお話ししましたが、幾何公差についても同じことが言えます。幾何公差については、「その解釈が十分なのか」というお話をしなければなりませんが、これは別の機会にお話しすることとします。

 ここでは、公差に対しての議論とし、これを裏付ける原理原則であり、設計者の根拠というものが“公差計算・公差解析”であるということで、話を進めることにしましょう。

公差の“統計的”な考え:SOLIDWORKS WORLD JAPAN2017(SWWJ)東京にて使用の資料から(講演者:筆者)

 皆さんも、一緒に考えてみてください。上の左の図のように□50mm、厚みが10mm、材料は任意とする部品があります。

 寸法公差は「JIS B0405:1991およびJIS B0419:1991の一般公差 精級」を適用して、50±0.15[mm]、10±0.1[mm]としています。この場合、上の右の図のように部品を5枚正しく重ねた場合、その厚み方向の寸法測定値はどのようになるのかを考えてみましょう。

 読者の皆さんもきっと、公差値が±0.1mmなので、この公差値の“単純な加算”を考えて±(0.1+0.1+0.1+0.1+0.1)=±0.5とし、10±0.5[mm]と考えたのではと思います。私もそう考えました。

 この計算の方法ですが、“公差の最大値と最小値の両極端を考えたワーストケース”を考えた上での計算方法となります。アセンブリーの寸法測定値は、部品に設定されている公差が確保できているのだとすれば、必ずこのワーストケースの公差値に収まります。これを「互換性の方法」「Σ(シグマ)計算」と言います。

 アセンブリーを構成する5部品において、その一部品を交換したとしても、その交換する部品の公差値±0.1[mm]が満足できているのであれば、交換後の組み立ての公差値±0.5[mm]は満足される結果になります。

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