「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

クルマが本当に「走るスマートフォン」になる日、カギはからっぽのECUMONOist 2018年展望(3/3 ページ)

» 2018年01月25日 14時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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ECUの中身は事実上からっぽ

 自動運転システムのレベル4以降では、ドライバーが運転できない、あるいはそもそもドライバーがいない場合に自動運転システムで異常が発生しても、安全に路肩に止めたり一定時間なにかしらの操作を継続したりすることが要求される(※5)。その対応策は冗長化だ。複数系統のECUの処理を診断機能で常時監視し、問題が起きた系統の出力は無視して正常な系統の処理を制御に使い続ける形が考えられる。

(※5)関連記事:自動運転車がシステム異常時にも安全な場所まで走るには

 ただ、1系統のECUのみで長時間の処理を継続するのは、冗長性が低下するため望ましくない。処理性能に余力のある別のECUに、問題が起きたECUの処理を代理で担当させることができれば、冗長性を回復して自動運転システムが動作することが可能で理想的だ。サービス指向アーキテクチャの考え方は、ECUの機能を「サービス」とみなし、他のECUにも自由に配置することを実現しようというものだ。OTAのメリットを最大限に発揮する上でも、ECUの機能を自由に配置できることは重要なポイントになるだろう。

 センサーやアクチュエーターを担当する「小さなECU」は、特定の部品の処理だけを担うのではなく車載ネットワークに直接ぶら下がり、さまざまな「サービス」に柔軟に対応することになる。また、「サービス」を処理するのはECUに限らず、車外のサーバであるかもしれない。これまでECUの要件として定義してきたレイテンシなどの項目は「サービス」の要件として見直すことも必要だとエレクトロビットの担当者は指摘する。

今までとは全く違う発想での設計

 このように、事前に設計されていないECU間通信を柔軟に行う考えは、従来のクルマの開発にはなかったものだ。E/Eアーキテクチャを大きく変えるには、ソフトウェアも変わる必要がある。VWとベクター、親会社であるコンチネンタルと密接な関係にあるエレクトロビットは、サービス指向アーキテクチャの重要な部品の1つが、次世代AUTOSARである「AUTOSAR Adaptive Platform」だと位置付ける。

 現行のAUTOSARである「AUTOSAR Classic Platform」は、ドメイン集約型までの次世代E/Eアーキテクチャを前提としており、事前に設計されていないECU間通信などサービス指向アーキテクチャに基づく設計には対応しきれない。しかし、AUTOSAR Adaptive Platformのみが使われるのではなく、機能安全の要求水準が高い部分には引き続きAUTOSAR Classic Platformが採用される見通しだ。

「走るスマートフォン」になった後に向けて、考えるべきことは

 ECUの機能を「サービス」とみなし、他のECUにも自由に配置することが実現できれば、クルマの在り方を大きく変えることができるが、車載セキュリティ(※6)の難易度も大幅に引き上がる。

(※6)関連記事:いまさら聞けない 車載セキュリティ入門カルソニックカンセイが車載セキュリティで新会社、「ITをクルマに合わせていく」

 ベクターの技術者は「車載セキュリティの作り込みは機能安全(※7)の作り込みとうまく融合しながら進めていける。機能安全もセキュリティも“何か起きた時にどう対処するか”というリスク指向の考え方は共通だ。別物だと考えてしまうと複雑な工程に時間を費やしてしまい効率が下がり、セキュリティの検証が難しいものになってしまう。車載セキュリティの作り込みが簡単な訳ではないが、機能安全に対応してきた素地は車載セキュリティへの対応にも重なる」と語る。

(※7)関連記事:あらためて「ISO26262」の全体像を把握しておこう

 それぞれのモデルでOTAをいつまで継続するのかという点も議論すべきポイントとなるだろう。スマートフォンであれば、古い機種はいずれアップデートが実施されなくなる。現在は自動車メーカー自らもレストアを支援し、古いクルマを楽しむことができるが、自動車もスマートフォンと同様になれば「サポートを終了したモデルは事故の危険がある。20XX年以降に製造した車種は走行禁止」となるかもしれない。


 自動車メーカーやサプライヤーにとって、アーキテクチャの全面刷新は容易ではないが、「4つのタイヤがついたスマートフォン」を実現できるE/Eアーキテクチャは、2020年前後に採用が待ちかまえている。クルマの自由度の大きな変化についてあらためて考え、具体的に備えるための時間はそう多く残されていない。

⇒「MONOist 新年展望」記事はこちら

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