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完全自動運転車にかかる「コスト」は誰が払うのか、「法整備」も高いハードルにIHS Future Mobility Insight(2)(2/3 ページ)

» 2018年02月26日 10時00分 公開

「新交通システム」としての完全自動運転車の可能性

「新交通システム」の代表例である「ゆりかもめ」 「新交通システム」の代表例である「ゆりかもめ」。正式名称は「東京臨海新交通臨海線」だ(クリックで拡大)

 では「新交通システム」として完全自動運転車を利用するとすればどうだろうか。

 新交通システムとは、東京の「ゆりかもめ」や大阪の「ニュートラム」のように決まった軌道データを持ち、それに沿って走る路線バスやシャトルのような乗り物のことだ。センサーを備え、遠隔操作/監視で運行を管理する。「決まった時間に」「決まった路線を走る」という意味では普及を阻害するハードルは低く、莫大な運用コストもかからない。高精細地図に対する依存は低く、通信データ量も少ない。さらに言えば、運行時間もルートも決まっているので、高速走行する必要はなく、高度な先読み機能も不要だ。

 こうした新交通システムは、限界集落の高齢者などが病院や役所に行く時に利用する「交通弱者の救済」という意味では、多いに価値があるだろう。「地方の公共交通機関の補完」という観点からも、運用可能なインフラとなるはずだ。少なくても5〜10年の間に普及する自動運転車は「特定ルート巡回シャトル」のほうが現実的である。

 もちろん「人手不足解消のため」に、自動車を自動運転化することに異議を唱える人はいない。しかし、既存の交通シテムに代わる手段として自動運転車を考えた場合、コストの観点から考えれば、5〜10年のスパンでは、公道を自由に走る完全自動運転車の普及は難しいと言わざるを得ない。

ドイツはレベル3の実用化を認可、自動運転法を上院で審議中

 次に、自動運転車を取り巻く各国の法整備を見てみよう。

 ドイツでは2017年5月、議会が道路交通法(StVG)の改定案を可決し、同年6月から施行した。この改定により「高度・完全自動運転」が可能になり、限定的なSAEの自動運転レベル3相当の実用化が認められたのである。具体的には、自動運転中であればドライバーがステアリングから手を離してもよいという内容だ。

 ただし、緊急時には手動に切り替える必要があるため、ドライバーは運転席に座っている必要がある。また自動運転を「ブラックボックス」にせず、「この操作は人間/システム(自動運転)のどちらが行ったのか」といった責任区分を明確にすることも求められている。

 ドイツでは主に欧州各国が加盟する「ウィーン道路交通条約」に基づいて規制しており、国連欧州経済委員会にある「WP29(自動車基準調和世界フォーラム)」で議論を進めている。WP29内には「自動運転(操舵)」を議論するワーキンググループがあり、現在は公道での自動運転の国際基準を議論している段階だ。現在、時速10km以下でしか認められていないオートステアリングに関する規制を、時速130Kmにまで緩和する方向で議論している(ただし、これには時間がかかりそうである)。

 一方、米国でも上院で自動運転法が審議されている。従来の自動車と同等以上の安全性が確保されていることが前提だが、法案が可決されれば、各自動車メーカーは、初年度に1万5000台、2年目には4万台(最大)の自動運転車の販売が認められる。

 米国で議論の中心になっているのは、各州法の“すり合わせ”だ。グーグル(Google)が本社を構えるカリフォルニア州など幾つかの州では自動運転車の実証実験がさかんに行われているが、自動運転に対して厳格な制限を設けている州もある。こうした制限を国として統一しないと、長距離運転のトラックが州を横断して走行する場合などに、混乱が生じることになる。

 現在、米国政府は、州政府が自動運転車の性能基準を設けることを禁止する方向で議論を進めている。しかし、州法と相反する部分はどのように制度設計するか、その具体的な解決策は示されていない。

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