食品業界の需給をサプライチェーン全体で最適化、NECがデータ流通基盤を提供製造ITニュース

NECは、「NEC the WISE IoT Platform」上に構築したデータ流通基盤「需給最適化プラットフォーム」を、2018年7月から食品業界を中心に提供を始める。これまでサプライチェーンを構成する製造、卸/物流、販売/小売がそれぞれ行っていた需給最適化を、サプライチェーン全体を横断する形でより効率化できるようになる。

» 2018年03月01日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 NECは2018年2月28日、東京都内で会見を開き、同社の「NEC the WISE IoT Platform」上に構築したデータ流通基盤「需給最適化プラットフォーム」を、同年7月から食品業界を中心に提供を始めると発表した。同基盤を用いることで、これまでサプライチェーンを構成する製造、卸/物流、販売/小売がそれぞれ行っていた需給最適化を、サプライチェーン全体を横断する形でより効率的な需給の最適化が図れるようになり、食品ロス/廃棄といった社会課題の解決にもつなげられるという。2020年の事業目標は、SIや連携する業務ソリューションの提供などを含めた売上高で200億円、ユーザー企業数で数百社となっている。

「需給最適化プラットフォーム」のイメージ 「需給最適化プラットフォーム」のイメージ(クリックで拡大) 出典:NEC

 需給最適化プラットフォームは、製造、卸/物流、販売/小売それぞれの実績や予測データをデータ流通基盤上に統合した上で、NECのAI(人工知能)技術群「NEC the WISE」を用いて最適な需要予測を行うことにより、サプライチェーン内における需要と供給の最適化を目指すクラウドベースのサービスになる。現在、食品業界の5社を対象にした実証実験を行っており、既に安全在庫量を20%削減するなどの成果が得られている。実証実験の結果を基に、2018年7月からサービス提供を始める予定だ。

「データの有効活用を重視する流れできつつある」

NECの中田平将氏 NECの中田平将氏

 製造業向けを中心に、需給を最適化するITツールは多数ある。それらに対して、需給最適化プラットフォームの差異化のポイントは3つある。1つ目は、NEC the WISEのうち、AIの判断した内容の説明が可能なホワイトボックス型AIである「異種混合学習技術」を用いていることだ。NEC エンタープライズBU 理事の中田平将氏は「最終的に人が行う受発注プロセスでは『AIが言ってるから』という理由では決断できない。AIの判断内容に対する高い解釈性が必要になる。そういう点で、異種混合学習技術は優れた機能を有している」と語る。

「NEC the WISE」のうち「異種混合学習技術」を採用 「NEC the WISE」のうち「異種混合学習技術」を採用(クリックで拡大) 出典:NEC

 2つ目は、AIによる分析精度を高められるコーザルデータ(商品の販売に影響を与える外部要因)の提供になる。気象情報、人口統計、交通量などがあるが、需給最適化プラットフォームでは日本気象協会と協業する。日本気象協会は、気象データを提供する以外にも、2017年4月から気象データを活用した商品需要予測コンサルティングを事業化しており、そのノウハウも活用する。

 日本気象協会では、相模屋食料の豆腐の発注前倒しの事例において、発注見込み誤差を8%から0.4%に、需要予測誤差を11.6%から9.2%に削減した実績がある。日本気象協会 防災ソリューション事業部 商品需要予測事業 マネージャーの本間基寛氏は「NECとの協業で、さらに大きな成果が得られるのではないか」と強調する。

豆腐の発注前倒しによる食品ロス削減の事例 豆腐の発注前倒しによる食品ロス削減の事例(クリックで拡大) 出典:日本気象協会

 3つ目は、企業間でのデータ連携をセキュアに実現するセキュリティ技術だ。金融機関でも採用されている匿名化加工技術、秘匿化技術などを用いて、ユーザーが需給最適化プラットフォームにデータを提供する際の心理的障壁を小さくする。「ユーザー企業が増えれば増えるほど、サプライチェーンに関わるデータの規模も大きくなり、より正確な需給予測が可能になる。従来は、製造、卸/物流、販売/小売のそれぞれで、実績や予測のデータを外部に出すことに忌避感が強かったのは確かだ。しかし、大手企業であれば、食品ロス/廃棄といった社会課題の解決を重視するようになっているし、労働力不足などに起因した環境変化への対応という意味でデータの有効活用を重視する流れもできつつある。その上で、しっかりとデータの匿名化、秘匿化を行っているので、より多くの企業に利用してもらえるのでは」(中田氏)。

 なお、需給最適化プラットフォームは、製造向け、卸/物流向け、販売/小売向け、コーディネーターサービスなどからメニューが構成されており、ユーザーはこの中から必要なメニューを選択することになる。価格は「大手企業向けでは、月間50万円からといったところを想定している。ただし、食品業界に関わる国内4万5000社の多くを占める中小企業が利用しやすいようなメニューも検討していきたい」(中田氏)としている。

需給最適化プラットフォームのサービスメニュー 需給最適化プラットフォームのサービスメニュー(クリックで拡大) 出典:NEC

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