「アップル=ファブレス」はもう古い、モノづくりの王道へ回帰モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

法政大学イノベーション・マネジメント研究センターのシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネスエコシステム」では、講演「アップルのモノづくり経営に学ぶ」を開催。アップルの業績の変遷やモノづくりへの投資の変化などについて解説した。

» 2018年03月08日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 法政大学イノベーション・マネジメント研究センターでは、日本における電子半導体産業の未来を考えるシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネス・エコシステム」を2018年2月2日に市ケ谷キャンパス(東京都千代田区)で開催した。講演で登壇したニッセイ基礎研究所 上席研究員 百嶋徹氏は「アップル(Apple)のモノづくり経営に学ぶ」をテーマに、アップルの業績がV字回復した要因やモノづくりの方針などについて解説した。

転機となった1996年とサプライチェーン改革

 アップルの企業業績において「転機となった年は1996年だった」と百嶋氏は語る。ちょうどMicrosoftの「Window 95」の発売により、アップルのPC「Macintosh」が劣勢となり大幅に減収。1000億円以上の営業赤字を出し経営危機が叫ばれていた。そこで、アップルは1度解任したスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏をアドバイザーという形で呼び戻した。

photo ニッセイ基礎研究所 上席研究員 百嶋徹氏

 ジョブズ氏が戻ったアップルでは、すぐに画期的な製品を次々に生み出したような印象も持たれてるが、実際には「そこから2年ぐらいかけて、サプライチェーン改革、製品改革などを矢継ぎ早に行い、それらで1つ1つ成果を残しながらV字回復を達成した」(百嶋氏)という※)

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 その後2000年代を迎えてiPodを発売。さらにiPhone、iPadを市場投入し、それらが新たな市場を創出するヒット商品となった。現在は、売上高は約25兆円(2017年9月期で2292億ドル)、営業利益が約7兆円(同613億ドル)、ROS(売上高利益率)27%という世界でも最高クラスの優良企業に成長した。

 ROSがピークだった(35%)のが2012年9月期で、これはiPhone4Sがけん引した時期である。また、最高の利益を出したのが2015年9月期で、この年は歴代で最も売れたiPhone6が貢献した。このようにアップルはiPhoneの新型モデルの発売が業績と大きくリンクしている。

 売り上げ構成比をみると、1997年度は、ほぼ「Macintosh」とその関連売り上げだった。それが2006年9月期にはiPodおよび音楽関連サービスが半分近くを占めるようになった。さらに2012年9月期にはiPhoneが売り上げ構成比の半分となり、2017年9月期には6割強をiPhoneが占めるようになっている。現在はiPhoneの比率が非常に高い状況となっているが、数年ごとに成長する製品を入れ替えながらここまで成長してきたということが読み取れる。

 コスト構造を見ると、広告費は2015年9月期(以後公表していないという)で2000億円、売上高に対して約1%と、それほど多くはなかった。ただ、販管費(販売管理費)、設備投資費、研究開発費に関しては右肩上がりの状況だ。

 中でも特に注目されるのが設備投資費だ。百嶋氏は「アップルは以前はほとんど設備投資らしいものがない『ファブレス』企業である時期があった。2000年9月期以降もアップルストアなどの店舗投資があったものの、年間500億円程度だった。それが、2010年9月期から工作機械や製造装置など有形固定資産に投資を開始し、設備投資費は約1兆5千億円となった。売上高設備投資比率も5%を超えるようになるなど、大きな設備投資を行う企業へと生まれ変わっている」と構造の変化について語る。

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