人とくるまのテクノロジー展2018特集

5Gは自動車に何をもたらす? 変わる車載カメラ映像の利活用自動運転技術

総務省が開催した「5G国際シンポジウム2018」において、通信キャリア各社が自動車での5G活用に向けた実証実験の結果を発表した。

» 2018年04月02日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 5Gを自動車に――。通信キャリア各社が自動運転技術やコネクテッドカーでの5G活用を積極的に提案している。

 5Gの応用事例を検証するため、総務省は2017年度から「5G総合実証実験」を実施。一般道でのコネクテッドカーのサービスについてKDDIが、高速道路でのトラックの隊列走行をソフトバンクが担当した。両社は遅延時間1msの低遅延通信の実現を目指してテストコースやシミュレーションで検証を行った。2018年度以降は、より実環境に即した実証実験を進めていく。

 実証実験の成果は「5G国際シンポジウム2018」(2018年3月27〜28日、総務省主催)で公開された。

隊列走行中の安全確認に5G

隊列走行で5Gをどのように使うのか(クリックして拡大) 出典:ソフトバンク

 ソフトバンクは子会社のSBドライブや先進モビリティと協力し、基地局と走行中のトラック、または走行中のトラック同士が低遅延な通信を行えるか検証した。

 まず、テストコースに5Gの候補周波数帯である4.7GHz帯を使用した実験用基地局を設置。時速50〜90kmで走行するトラックが目標の遅延時間である1ms以下で基地局と通信できることを確認した。次に、隊列走行では、車車間通信の実験の第1段階として後続車両に搭載した車載カメラの映像を先頭車両にリアルタイムに伝送することをテーマとした。いずれの実験でも正常に動作することを確認できたという。

 隊列走行では将来的に後続車両を無人とすることが検討されており、実現すれば先頭車両から最後尾の周辺環境を確認することが難しくなる。先頭車両のドライバーが最後尾まで安全を確認できるようにするため、5Gを使って高画質な映像をリアルタイムで伝送することに取り組んだ。

 実験ではドライバーが運転する3台のトラックを使用し、後続の2台に前方と左右の後側方を撮影するフルHDカメラを搭載している。LTEではフルHDカメラの映像に乱れが生じるため、5Gでなければ伝送することが難しい。また、高速走行中は遠方の車両まで検出する必要があるため、高画質な映像による周辺監視が必要になると見込んでいる。

5Gの車載アンテナと周辺監視用のカメラをトラックに取り付けた(クリックして拡大) 出典:ソフトバンク

 車両の前後には、5Gの候補周波数帯の1つである28GHz帯のアンテナも設置する。28GHz帯は直進性が高く、ビーム幅が狭いことが特徴だが、アンテナの指向性を工夫することで緩いカーブなどでも通信を維持できるようにした。

 車車間通信に4.7GHz帯ではなく28GHz帯を使用したのは、広範囲なエリアを網羅する必要がなく、先行車両との車間距離程度をカバーすれば十分であるためだ。最後尾の3台目の車両の映像は、真ん中を走る2台目を経由して先頭車両に送信した。3台目のトラックの映像表示に遅延が生じないよう、モニターの処理やコーディングに工夫を施した。

車両の制御情報を伝送するのは次の実験で

 今回ソフトバンクが行った車車間通信の実験は、後続車両からの映像伝送のみ。隊列走行で操舵(そうだ)や加減速を制御する時に必要な、先行車両の制御情報は送受信していない。2018年度以降で制御情報を5Gで伝送する実験を行う。より短い車間距離で隊列走行を行う上でも、低遅延の5Gが有効だとしている。

 また、無線通信の信頼性の確保にも取り組む。2つの5Gアンテナ、もしくは5GとLTEなど他の通信方式との併用も候補に入れて冗長化する。隊列走行に一般車両が割り込んだ場合への対応も課題としており、アンテナの取り付け位置を工夫して影響を受けないようにする他、法規制によって割り込ませないようにするなどの対策を検討している。

 28GHz帯の車載アンテナは実証実験のための試作品で、最適な外形寸法や性能に落とし込むことも課題となるという。ソフトバンクの説明員は「通信が途切れることを許容できるかなど、5Gにどこまで要求するのかによって量産の車載アンテナが決まる。実用化に向けて技術的な壁があるわけではなく、必要な技術は出そろっているとみている」と説明した。

クルマが“動く監視カメラ”になる日

KDDIとトヨタIT開発センターの実証実験実施イメージ(クリックして拡大) 出典:KDDI

 KDDIとトヨタ自動車子会社のトヨタIT開発センターは、5Gによってクルマに移動する監視カメラとしての役割を持たせることを目指す。高画質な画像を低遅延で送受信できる特徴を生かして車載カメラが撮影した映像をクラウドに集め、違反車両の追跡などを行えるようにする。

 参加した総務省の実証実験では、都心部での5Gの通信エリアの構築と、追跡のための車車間通信のシミュレーションをそれぞれ行った。5Gの通信エリアを東京都新宿区や愛知県一宮市で試験的に構築した結果、広範囲を4.5GHz帯でカバーし、網羅しきれないエリアを28GHz帯で補完する形が適切だと分かった。

 両社は次のような仕組みで“動く監視カメラ”の実現を目指す。まず、違反車両のナンバーと目撃された大まかな地域をセンターで入力すると、該当地域を走行するバスやタクシーなど公共交通機関の車両が車載カメラの映像をセンターに5G経由でアップロードする。これらの映像で追跡しきれない場合には、バスやタクシーから一般の車両に5Gではない通信方式の車車間通信で協力を仰いで、さらに多くの車載カメラから映像を収集する。

 2017年度の実証実験では、バスやタクシーから一般車両に車車間通信で映像アップロードの指示を送ることができるかコンピュータ上で検証した。2018年度以降は、5Gによる車載カメラの映像アップロードと、車車間通信による一般車両への指示を組み合わせて、より実際のシステムに近づけていく。

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